第3話 少年ウゲツ
ウゲツ少年は、天狼星の町の中で、仕事をしている。
磁転車(じてんしゃ)を運転して、狭い路地の奥の奥、
人のひっそり住んでいるそこに出張して、
掃除をするのが、ウゲツ少年の仕事だ。
磁転車はウゲツ少年の仕事と切っても切り離せないもので、
車輪が二つ、鞍一つ、踏み込み機がある。
磁転車の後ろに大き目の装置が乗っかっていることをのぞけば、
思い描く自転車とそう大差はない。
ウゲツは、磁転車を駆り、今日の掃除の家を探す。
町はほとんど直角な坂も多いし、
場合によっては階段を磁転車で上がるような真似もする。
町が縦に伸びていった弊害かもしれないけれど、
ウゲツはそういう難所らしいものを、相棒の磁転車と越えていくのが好きだ。
磁転車は操作によってある程度の跳躍も可能だし、
滑り落ちる際にもウゲツの腕なら事故は起こさない。
ウゲツは普通の少年だ。
少し伸ばしている黒髪に、額にかけられた覆い眼鏡、
ちょっと灰色の上着と、青い作業着。
少々、開いているのか閉じているのか、わからない糸目。
帯電しないように、腰には装置がぶら下がっている。
おもちゃくさい装置で、放電銃と呼ばれている。
ちょっとびっくりさせる程度の、放電が起きる、防帯電の装置だ。
背には掃除用具であるところの、長い螺子が背負われている。
大きなかきまぜ棒といえば想像が通じるだろうか。
ウゲツの肩書きは、一応、磁気掃除人。
電気が通っているこの町には、電気の流れの過密なところによどむ、
磁気が起こす、磁界が生ずることがある。
磁界は電波をゆがめ、人の生活に影響する。
磁気自体は、ウゲツのように動力に還元できないこともないが、
磁界が一度生じると、掃除を頼んでしまったほうが手っ取り早い。
過剰な磁気を掃除して、電気のよどみを整え、
掃除した磁気は、磁転車の動力源となるほかに、
電気街中心で買い取ってくれたりもする。
磁気の廃物利用に近いものと思っていただければいい。
それは、ウゲツのような少年の、いい小遣い稼ぎになるわけである。
磁転車を駆り、ウゲツは狭い路地を行く。
長い螺子がちりちりいうのを感じる。
磁気のなす、磁界が起きているのを、ウゲツは感じる。
掃除しがいのあるほうが、ウゲツは燃える。
そういう、普通の少年だ。
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