第63話 陽だまりの中

欲しがるものがすべて与えられるとは限らないし、

配給を待たなくても、いつの間にか手に入っていることもある。

ガラクタにとって植物とはそういうものだし、

また、ガラクタにとってのマルも、そういうものに近いと思う。

ガラクタは、そんなことをぼんやり思う。


マルはガラクタの植物園で眠っている。

植物にとって、最良の場所として、太陽の光がある場所。

中心から部屋を借りるに当たって、それだけは譲れなかったから、

交渉が難航したのをガラクタは覚えている。

壁をぶち抜いてやろうかと、ガラクタは半ば本気で考えたものだった。

カミカゼが迷惑そうな顔をしたのを、今でも覚えている。


ガラクタの植物園。

太陽の光の入る一角の長椅子で、

マルは気持ちよさそうに眠っている。

最近みんながぴりぴりしている電波のことなど感じないように、

あるいは、と、ガラクタは思う。

植物は電波を無効にする効果があるのでは、と。

証明しようにも、まずは電波などの計測からしないと……。

考えながら、ガラクタは横になっているマルの隣に腰をかける。

穏やかな太陽の光が植物を照らし、

マルを照らし、ガラクタを照らし、

水を届ける装置の音が静かに。

なんだかガラクタは、考えることが馬鹿らしくなった。


ガラクタは、なんとなく、マルの頬をつついてみる。髪をなでてみる。

意外と起きないものだなとガラクタは思う。

飽くことなく、マルの髪をなでる。


ガラクタは思い出す。

そういえば、と。

国に連れて行かれた少女を、取り返す計画があるという。

ガラクタは関係ないと思っていたけれど、

国に反旗を翻すことになったら、と、思う。

ガラクタの本が出版できなくなるだろうし、

そうしたら、この植物園もなくなってしまうだろうし。

そもそも、天狼星の町がなくなったら。

ガラクタは怖くなる。

この、穏やかな時間を失うことにおびえている。

植物を、マルを、時間を、町を、

ガラクタはようやく気がつく、だから、かと。

大切なものはガラクタにも確かにあって、

そういうものを守るために、みんな何かの行動をしていると。

ガラクタにも失いたくないものは、ある。


この陽だまりの中に眠る、穏やかなもの。

いつの間にかこの手の中にある、

閉じ込めたいくらい、大事なもの。

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