第64話 作品
カミカゼは走る。
老頭の決定を受けて。
何もかもを予測しているような、老頭の、
とりわけ、チャイの言動が気にかからないわけではない。
疑うのとはまた違う、奇妙な気がかり。
それも巻き込んでカミカゼは走る。
今日もなんだか電波がぴりぴりする気がする。
フウセンはこの電波の中、大丈夫だろうか。
カミカゼは動ける範囲すべての人の心配を連鎖的にする。
その中で、優先順位を無理やりつけて、カミカゼは走る。
そうでなければ、この天狼星の町が動かないことをカミカゼは良く知っている。
だから、チャイに対する気がかりは、ひとまず置いておく。
カミカゼはギムレットの元を訪れ、
ソロバンの構築式待ちだと聞く。
ひとつのオウムガイがそこにある。
かなり大きい。
「でかいな」
思わずカミカゼはつぶやく。
「それでも二人は限界を超えるだろうな」
「これでもか?」
「一人なら飛べる。二人なら落ちていくだけだ」
ギムレットはちょっとだけ説明する。
この電気の集中している天狼星の町から離れると、
オウムガイの出力(要は飛ぶ力だと付け加える)が、
急激に落ちていく。一人なら、それでも飛べる。
二人以上はまず落ちると思っていたほうがいい。
「これで彼女を取り戻すんじゃないのか?」
カミカゼは尋ねる。
「電気だけなら、まず無理だろうな。取り戻しても墜落する」
「だったら」
「これに乗るのはウゲツだ、そうだろ?」
「ああ、磁気掃除人の……」
「あいつは、一級永久磁石を持っているというが、どうなんだ?」
「俺はまだ現物を確認していない」
カミカゼは正直に言う。
ギムレットは、うなずく。
「いろいろ未知数か。それはそれでいい」
面白そうに、つまらなそうに。
「とりあえず、オウムガイは大体出来上がっている」
ギムレットは、渦を描いている電装の乗り物をちょっとはじく。
寸法としては、磁転車に乗るのと感覚は変わらない。
動力がある内蔵されているので、磁転車よりは少し大きい渦の貝。
化石によくあるオウムガイの電装。
これがウゲツを載せて空を飛ぶという。
チャイは出来上がることもすべて見越していた。
ウゲツがネココを取り返しに行くといっていたことも、
すべてお見通しなんだろうか。
何かが笑っている気がする。
気のせいと思うには、気がかりだった。
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