第100話 サボテンの町
それから。
町はゆっくりと元に戻っていった。
電気や電波が戻ってくるのに時間がかかったけれど、
あの大騒ぎがお祭りか夢かのように、
ゆっくりと日常に片付けられていく。
時々そっと思い出しては、
微笑を浮かべたくなるような記憶。
無茶をしたとか、やり遂げたとか、馬鹿なことをしたとか、
もろもろの感覚はあるけれど、
後悔はしていない。
町の住民は、誰も。
ウゲツはホホエミの粥屋にきていた。
助手のネココも一緒で、
今日も元気を出すべく、粥をすすっている。
ガラクタの植物園がなくなったということを、
ずいぶんあとになってから聞いた。
そこまで絞りきった電気が届いていたんだなと、
ウゲツはいまさらになって思ったものだった。
そのガラクタはまた、一から植物を集めなおしていると聞く。
あきらめないこと。
みっともなくてもあきらめないこと。
ガラクタもウゲツも、みんなそうなんだろう。
ネココは粥を冷ましている。
ウゲツはそんなネココを飽かず見ている。
満たされるというのは、こういう気持ちかもしれない。
お嫁さんは、もう少しあとでいいかもしれない。
ウゲツの近くに、誰かが腰掛けた。
見ると、そこにはガラクタがいる。
いつものように血色はよくないが、
不思議な微笑をたたえている。
小さな鉢を持っていて、そこには珍妙な何かがある。
ガラクタは、ウゲツが見ていることに気がつく。
「一つだけ残っていたんだよ」
ガラクタは少しだけ誇らしげに言う。
それが、鉢のそれであることは、多分間違いない。
「コビトがいってたんだ。これはサボテンというものらしい」
「サボテン?」
「ああ、この町の形とよく似た、サボテンという植物らしい」
ウゲツはサボテンを見る。
珍妙かつとげとげ。
いわれてみれば空から見た町の姿によく似ている。
「電気を蓄えて、とげとげしていて、天辺に花が咲くのもあるらしい」
ガラクタはとうとうと話す。
「この町は、サボテンのような町なんだ」
ウゲツはうなずく。
ガラクタもうれしそうだ。
天狼星の町は、程ない未来に、
サボテンの町と呼ばれるようになる。
電気を吸収して、奇跡を起こす町。
磁転車乗りが、奇跡の片棒を担いだ町。
珍妙かつ、とげとげとした、愛すべき町が、そこに、ある。
おしまい
カミサマのいない町 七海トモマル @nejisystem
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