第61話 空よ

コビトはこっそり、ハンマーの階層まで下りてきていた。

ハンマーはいつものように化石を掘っていて、

コビトなど気にも留めないようだ。

先ほど、化け物のような殺気を感じた。

カタナだろう。

でも、そんな気配を出して交渉はどうなるんだろうか。

コビトは不安になる。

町が壊されてしまったらどうしよう。

カタナのことだから勝算があってのことだろうけれど、

どうか、この町を守って欲しいとコビトは思う。

せっかくたどり着いた居心地のいい町だから。

とてもとても、安心できる場所だから。


コビトは、屑石の近くに腰をかける。

健全な電波というやつで、コビトは安心しているのだろうか。

見上げれば、天狼星の町の空中線がずらりと。

なかなかに壮観だと思う。

空はどこもそうであるように青く。

旅をしてきた町の空がそうであったように青く。


「ハンマーさんよ」

コビトはなんとなく呼びかける。

「俺の旅してきた町にはな、空にカミサマってのがいるんだとか」

「……なんだ、それは」

「さぁな、俺にもよくわからない」

コビトは風に目を細める。

ぎょろりとした目を、気持ちよさそうに。

「カミサマってのは何でも知ってるんだとさ」

「なんでだ?」

「さぁな」


コビトも旅で聞いたことでしか知らない、

カミサマというもの。

祈れば願いすらかなえてくれるという。

祈りとはよくわからないが、強い願いだろうか。

「この町にもカミサマはいるのかな」

コビトはなんとなく、そんなことをつぶやく。

「いてもいなくても、やることをやるだけだ」

ハンマーは石を砕きながら答える。


チャイとカタナが戻ってくる。

交渉は終わったのだろうか。

「どうだったい?」

コビトはたずねる。

チャイが答える。

「一日、戦艦ミノカサゴを、空に泳がせるらしい」

「なんだい、どうしてだい?」

コビトはたずねる。

「足りないものがあるという。一日待つという。そういうことらしい」

「なんだい、足りないものって」

コビトはわからない。

「足りないと、彼女が不安定だという」

「不安定?」


『つけいるなら、そこだね』


頭に、何かの声が聞こえた気がした。

コビトは、なんだか怖い声を聞いた気分になった。

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