第60話 交渉

老頭のチャイが、天狼星の町をおりて、

ハンマーとカタナのいるところにやってくる。

従ってくる、少女。

名前をネココという。

カタナは彼らの護衛につく。


天狼星の町の外は、

見渡す限りではないが、荒野というものに近い。

灰色の起伏があり、植物は少ない。

適度な距離に戦艦ミノカサゴがいる。

カタナは見えるが、ミノカサゴと町の間あたりに、

国の兵士が陣取っている。

あそこで交渉をする気なのだろう。


カタナは気配を張り詰める。

チャイが歩き出す。

ネココが続く。

守るようにカタナが歩く。

彼らは何も話さない。

ぴりぴりした気配だけが伝わってくる。


場にたどりつくと、そこには、

色つき眼鏡の軍人と、その部下らしい男。

周りには一般兵。武器を構えている。

交渉じゃないだろうとカタナは思う。

これは、明らかに脅しだ。


軍人は名前をサカナと名乗り、

部下はオトギと名乗る。

交渉を始めようとサカナは言い、オトギが歩み寄ってくる。

カタナは戦艦の機械音を感じ取る。

なるほど、取る物取ったら町を壊す気かと悟る。

カタナはチャイをちらりと見る。

チャイも視線だけくれる。


鍔鳴り。

そして、オトギの首に、カタナの刀。


「照準をはずせ、馬鹿な軍人ども」

カタナが怒鳴る。

「さもなくば、お前らすべての首がこの原に並ぶぞ」


カタナは、殺気を解放する。

一般兵をおびえさせるには、十分すぎるそれを。

カタナが、手始めにオトギの首を落とそうと思ったそのとき、

カタナの装束を誰かが握った。

振り向けばネココだ。

殺気にもひるまずにカタナを見据えている。


「この娘が狙いなのだろう。町には手を出すな」

チャイが言う。

サカナはうなずく。

カタナはオトギに当てていた刀を鞘に戻す。

ネココは、彼女はオトギの手をとる。


「いいのか?」

カタナは問いかけてみる。

その問いに、

ネココは何かから解放されたような、不敵な笑みを浮かべて返した。


オトギはネココの手をとり、

交渉はこれで終わった。

町は救われたはずだった。

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