第95話 ねがい
天狼星の町の下。
ハンマーは夜通しで化石を掘っている。
疲れることは疲れる。
それでも、化石を掘って圧搾機にかけなければいけない。
化石は電気を内包していて、
夜中と同じようにほのかに光をたたえている。
それを解放しなくてはいけない。
ハンマーは己にそう義務付け、
ただただ化石を掘る。
ハンマーが重い化石を手にしようとする。
そのとき、重い化石が軽くなった気がした。
作業に夢中になっていて気がつかなかったが、
重い化石が誰かの手によって、持ち上げられていた。
「ハンマー、手伝ってもいいか?」
そのこえはカガミ。
取締りをしているはずではなかったのかとハンマーは思う。
それを言おうとすると、暗がりの中、カガミは照れくさそうな顔をした。
「もう、違法も合法もめちゃくちゃだ」
「ならばなおさら」
「いや、みんな一つのところに向かっている」
カガミはそれだけは確信しているらしい。
「今の状態を取り締まるのは、野暮だよ」
カガミは、苦笑いらしい顔になる。
「せめて合法なところを手伝おうとしているよ。この石でいいのかな」
「ああ、ありがとう」
ハンマーは置かれたその石を掘る。
カガミは次々に手ごろに重い石を運ぶ。
ハンマーはずっと町の下にいるが、
どうも町がざわざわと騒がしい感じはする。
爆発だって起きたし、
先ほど肩で息をして汗まみれのカミカゼが、
電気を、頼むと言ってまた走っていった。
あれではいつ倒れるかわかったものじゃない。
みんな、後先考えないと、誰かが言っていた気がする。
何でわかるのだろう。
ハンマーは少しだけ疑問に思う。
ハンマーの寝床の布団が持っていかれたり、
それを咎める気もなく、
ただ、さっき伝わったそれかなと思っている。
「電波が直接入るらしい」
カガミは言う。
「電波の伝播が起きるって、誰かが思っていたことがどんどん伝わるんだそうだ」
「それは…どういうことなんだ?」
ハンマーは訊ねる。
「強く願うことが、みんなの願いになることかもしれないって、誰かが思ってた」
カガミは答える。
ハンマーは化石を掘って圧搾機にかける。
みんなの願い。
町は一つになって動こうとしている。
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