カミサマのいない町

七海トモマル

第1話 空中線の町

サボテンを見たことがあるだろうか。

長く縦に伸びた、

サボテンを見たことがあるだろうか。

棘が細かく出ている、

あの、サボテン。


多分想像しているそれと、

これから描く天狼星の町は、そんなに食い違っていないはずだ。

天狼星の町と呼ばれる場所は、

縦に長く伸びている町だ。

あちこちから無数の空中線が出ていて、

棘の様相を呈している。

空中線がある場所に人は、いる。

家だったり店だったり、人が生活している。

天狼星の町というのは、ひとつの集合住宅の、大きいのを想像していただければいい。

大きい、かなり大きい。とても大きい。

縦に横に、想像のサボテンと同じように伸びた、

大きな塊だ。


天狼星の町の外周、側面を取り囲むように、

窓、そして特徴的な空中線。

針のように、墓標のように。

空中線は実はこの町この世界にとって重要なものだ。

人は健全な電波によって、健全な生活を送ることができる。

空中線は健全な電波を得るための装置で、

電波技師がちゃんと設置しないと、良くない違法局が受信されたりして大変だ。

天狼星の町に人が集中するのも、

ひとえに、電波の濃度、および質のよさから来るもので、

そういった事情がなければ、

この町はなかったであろう。


この世界の動力源は、発掘された化石などによる、「電気」だ。

電気は、古代の生き物が凝縮されて石になったそこから搾り出される。

その搾り出された電気に、変換機を通じさせ、

様々の動力に使うことができる。

電気は伝気とも言われ、古代の生物が何かを伝えたがっているという学者もいるらしいが、

ともかく、目下この世界の動力源だ。

電気は天狼星の町のあちこちに配給され、

電波局から健全な電波が流れ、

配給された電気によって、電気の動力も動く。

人々は大きなぎゅうぎゅう詰めの天狼星の町で、

忙しいながらも穏やかに生きている。


少年ウゲツが生きている世界は、

そんな天狼星の町の一角、上でもなく下でもなく、

とにかく大きな塊のどこかだ。

大きな天狼星の町の中。

少年は他の誰もと同じように生きている。

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