第66話 ハコの来訪

ウゲツは一人で部屋にいた。

ちょっと前までは、ネココがハコ先生から借りていた本を読んだりしていた。

めくる人もいない本は、沈黙したままそこにある。

ネココを取り返しに行かなくちゃ。

ウゲツは思う。

そして、今度こそ、国にも老頭にも負けずに、ネココの事を、守るんだ。

ウゲツは、手の中にある首飾りを握り締める。

ネココがウゲツに託したもの。

絶対返す。

ぴりぴりとした感覚が、ウゲツの中に満ちる。

今にもあふれそうな感覚。

ウゲツはこの感覚の名前を知らない。


扉を叩く音。控えめに。

「誰?」

「ハコです」

ウゲツは扉を開く。

「ハコ先生……」

ウゲツは何かを問いたいと思う。

強くなるにはどうしたらいいか、とか。

あふれ出しそうな感覚の正体はなんなのか、とか。

「ギムレットのオウムガイはご覧になりましたか、ウゲツ」

「いいえ、まだです」

「見ておくといいでしょう。いずれ、あれに乗っていくのでしょう」

「はい」

ウゲツは短く答える。

電気街中心は、ウゲツがネココ奪回に動くと予測して計画を立てていたらしい。

用意周到なことだとウゲツは思う。

でも、中心が動かなくても、ウゲツは可能な限り無茶をして、

きっとネココを取り戻しに暴れていただろうと思う。

老頭がお膳立てしなくても、ウゲツのあふれ出しそうな感覚が、爆発するかして、

ウゲツはウゲツでなくなっていたかもしれない。

ウゲツはそんなことを思う。


「ウゲツ」

「はい」

「最近電波がおかしいと聞きますけれど」

けれど、と、言葉を区切って、ハコは続ける。

「高い空では電波の影響を受けないと聞きます。言いたいことがわかりますか?」

「いいえ……」

「あなたが知らないあなたが、空にいるかもしれません」

「空に……」

「どうか、戸惑わないで、すべてはあなたの中にいます」

ウゲツはハコのいうことがよくわからない。

けれど、空に、未知があることを感じる。


「ネココが待っているんです。約束したんです」

ハコはうなずく。

「やれることをやりなさい。それが、あなたの役目です」

「はい」


電波の所為か、ぴりぴりしている。

ウゲツの手の中、首飾りがちりちりとしているように感じられた。

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