第99話 花

空を飛ぶオウムガイに、

爆音を立てて電気が届く。

オウムガイは電気を巻き取り、最後の力を振り絞る。

落下する速度はなかなか遅くならない。

ウゲツは出力を上げる。

音を立てては沈黙する。

気休め程度に速度が落ちる。

オウムガイ自体が、限界なのだろうと、ウゲツは感じる。

ウゲツの知識にはないが、即興で作ったようなものが、

外から電気を巻き取ってこれだけ動けるのも、すごいのかもしれない。

ウゲツは出力を上げる。

奇跡の真っ只中に己があることを知らずに。


「ウゲツ」

ウゲツの背のネココが、言葉をかけてくる。

「もうすぐ朝だよ」

ウゲツは少しだけあたたかい光を感じる。

ずっとずっと向こう、地平線から新しい光がやってくる。

朝なんて、太陽なんて、

感じなくても一日は始まっていた。

でも、朝が来る前のこの高揚感。

光がやってくる前の、静寂。

新しい何かが始まる感じ。


空は刻々と色彩を変え、

灰色の大地を、そして、天狼星の町を照らす。

太陽の光は、当たり前の奇跡のように、

朝をつれてくる。


「ウゲツ、花が咲いてる」

ネココは言う。

灰色の台地に咲く、可憐な花。

それは、天狼星の町の天辺、

住人が寝床や衣類や、その他もろもろのものを集めた、

おかしな花。

底抜けに優しい花。


オウムガイが高度をゆっくり下げる。

朝を引き連れて少年と少女は帰還する。

寝床の花の只中に彼らは着陸して、

もこもことした中に、彼らは放り出される。

オウムガイは爆発音を小さくして沈黙。

空を光が染めていく。


ウゲツとネココは、花の中にいる。

空を見れば、戦艦ミノカサゴが小さくどこかへ飛んでいく。

「ネココ」

ウゲツは呼びかける。

「うん?」

「おかえり、ネココ」

「ただいま、ウゲツ」

二人、微笑みあう。


あたたかい気持ちが伝わっていくのを感じる。

健全さとはちょっと違うけれど、

ただ、とてもあたたかい。

そして、眠い。

ちょうどここには寝床がある。


それは電波の関与しない深い眠り。

天狼星の町は、疲れて眠る住民を抱え、静かな朝を迎えていた。

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