第96話 炎上する植物園

ガラクタは、マルを植物園の中に閉じ込めている。

ここが一番安全だから。

電波にも、今あちこちで暴走している電気にも、磁気にも、

守られている安全な場所だとガラクタは思う。

植物に電気がたまるのがわかる。

マルはガラクタに、考え付いた指示を出す。

ハコ先生や、散髪屋のフクロや、子供達など、

電気のことに通じてない人に、

マルはふかふかしたものを集めてくれと頼んだ。

それらを、天狼星の町の天辺に集める。

放電機を邪魔しないように、色とりどりの寝床を集める。

マルが指示したことが、何の意味があるかわからない。

ただ、伝播して伝わってくるのは、

花を作るということ。

それはとても大切なものであること。


マルはあきらめたように、植物園の中にいる。

不安そうに、夜の空が見える窓を見ている。

空にいったという少年を、少女を、

心配しているのかもしれないし。

思ったそれを誰かにやってもらうということが、

もどかしいのかもしれない。


ガラクタにそれが伝播する。

マルはこの町の住人だ。

不安な顔をして欲しくない。

あきらめきって欲しくない。

ずっと安全な位置にいて欲しかった。

ずっと、ガラクタのそばで微笑んでいて欲しかった。


ガラクタは、ひらめいた。

植物に電気を溜め込む性質があるなら。

それも全部乗せることができないか。

空に向けての放電はまだか。

植物に向かって配線をしていては間に合わない。

思ったらガラクタは、

「マル!ここを出て思いっきり離れるんだ!」

叫んでいた。


ガラクタの思いが伝播する。

ずっと一緒にいたかった。

今から植物を燃やして、たまった電気を解放させる。

少しでも、空に届くように。


植物園は隔絶されている。

大火事になることはないはず。

ただ、行き場のなくなった電気は、燃えた植物園の中の配線を通っていくはず。

ガラクタはそこまで思う。


「解放するときだ!」

閉じ込めていたマルも、電気も、

ガラクタの思いも、

少しゆがんでいたけれど、

マルがいたら幸せだった。


マルは戸惑いながらも駆け出す。

ガラクタは火を放つ。

あちこちの植物が鋭い音で電気反応して、

電気は配線にもぐりこんでいく。


植物園は炎に包まれた。

ガラクタは涙を流す。

水が届いて鎮火したそこには、

もう、なにもなかった。

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