第51話 首飾り

ウゲツは取り返しに行くと、誓った。

誓い。告げた言葉。

それは実行しないといけない。

ウゲツの中でそれは、何か大きなものに対する挑戦状になり、

予告であり、あるいは、もっと純粋なものになる。

「ウゲツ」

ネココが涙目で微笑む。

「約束だよ」

ウゲツはうなずく。

「約束。取り返しに、行くよ」

「うん、雇い主はウゲツだもの。ウゲツがこなくちゃ」

「雇い主」

「うん、ネココの雇い主はいつまでもウゲツだから」

ウゲツは複雑な気持ちを持つ。

こんなときになってまで、お嫁さんのことを考えていたことが、

棘のようにちくちくするとは思っていなかった。

「雇い主、だから」

ネココは繰り返す。その言葉はちょっとだけ、小さな傷のようにうずく。

「うん、そう、だね」

「ウゲツ?」

「なんでもないよ。なんでも」

ウゲツは笑みを浮かべることに専念する。

信じているネココに、これ以上不安にさせるような、おかしなことを言ってはいけない。

ウゲツの糸目は、幸いに表情が読みにくい。

笑顔に専念すれば、ネココも安心してくれるはず、

ウゲツはそう読んでいた。

違った。


「ウゲツ」

「うん?」

「変な顔」

「そう、かな?」

ウゲツは困る。

「ウゲツが元気になるおまじない」

「おまじない?」

ウゲツが聞き返すと、ネココは首飾りを無造作にはずす。

ウゲツの指をネココはゆっくり手にして、

その手に首飾りを握らせる。

ウゲツの手と、ネココの手が、ともに首飾りを握る。

「これは…」

ネココはふるふると頭を振る。

そして、ウゲツから手をそっと名残惜しげに離すと、

そのまま後ろも見ずに走り出した。

ネココがカミカゼらしい人影につかまったか保護されたかが、視界の先で見える。


別れの言葉もない。

別れないからと信じているのか。

この首飾りは、元気になるおまじないだという。

ウゲツは手を開き、首飾りを確認する。

小さな石ころらしいもののついた首飾り。

こんなもので元気になるものか。

ウゲツは思う。


元気になるのは、ネココの笑顔だよ。

だから、これは返さなくちゃ。

それはウゲツの決定事項になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る