愛してるゲーム
「一宮さん、大変なことになりました」
「なんか秘密の会話してるみたいでドキドキするね」
「してるんだよ?」
俺と一宮さんは相当なことが無い限りは誰も来ないであろう、施錠されている屋上の入口前の踊り場に来ていた。
何故かと言うと、今言った通り秘密の会話をする為だ。
「一宮さんも知ってるよね?」
「私と皆戸君の噂?」
「そう」
朝、学校に来ると、教室では俺と一宮さんの噂でもちきりだった。
特に目立っていた訳でもないけど、高校生というのは人の色恋を無駄に突っつきたがる。
要は、俺と一宮さんが付き合っているという噂が流れた。
「なんでああも人の仲を邪魔したがるのか」
「でもなんで噂が流れたんだろうね」
「それは分かるでしょ」
おそらく俺と一宮さんが校舎裏で写真を撮っていたところを誰かに見られていたのだろう。
逆にそれ以外考えられない。
だって教室では一緒にゲームをしてるだけだし、お互いの家に遊びに行ってるのは、その時に何もなかったから誰も知らないはずだ。
「そっか、お友達なだけなのにね」
「……そうだね」
そう、友達だ。
それでいいのだけど、なんか胸がチクッとする。
「何もしなくてもすぐに元通りになるでしょ」
「そうだろうけど、少なくとも今日、最悪数日は今まで通りにゲームは出来ないからね?」
「な、なんで!?」
「火に油になるからだよ」
そんな目をまん丸にする程驚くことではない。
付き合ってる疑惑のある俺達が仲良くゲームをしていてら、勝手に疑惑を深めることになる。
そうしたら噂が長引き、最悪の場合はからかいが始まる。
「じゃ、じゃあ、ここでならどう?」
「それもどうかとは思うよ。校舎裏でバレるんだから安全とは言えないし」
「ならどっちかのお家……は、私が我慢出来ないかもだ」
要するに何も出来ない。
噂が流れたせいで俺と一宮さんが堂々と仲良く出来なくなったと捉えるか、真実だから隠す為に何もしなくなったのかと捉えるかは分からないけど、どちらにしろ何も出来ない。
「うぅ、でも皆戸君に迷惑はかけられないもん。我慢……する」
一宮さんが今にも泣き出しそうな顔でそう告げる。
「俺は別にいいよ。困るのは一宮さんなんだから」
「なんで?」
「だって俺と付き合ってるって噂がずっと流れるんだよ?」
「うん」
(いや、うんじゃなくて……)
一宮さんは本当に何も思っていないように見える。
だけどそれはつまり、俺と付き合ってるという噂を流されてもいい。
まぁ所詮は噂と思ってくれているのだろうけど。
「勘違いするよ」
「何を?」
「なんでもない。俺は一宮さんが気にしないなら大丈夫だよ」
「じゃあ今まで通り教室でゲームしてくれる?」
「うん」
一宮さんが「やったー」と飛び跳ねながら喜んでくれた。
(色々考えるのが馬鹿らしくなってきた)
一宮さんは噂を流され、それを言われ続けるより、俺とゲームをすることを取ってくれた。
それなら俺も、ずっと一宮さんとゲームをすることだけを考える。
「とりあえずやる?」
「やる! 噂に習って『愛してるゲーム』とかやる?」
「いいの? それってやる前からどっちが勝つか決まってるけど」
「負けないもん」
ちなみに勝つのは一宮さんで、負けるのは俺だ。
だって勝てる訳ないのだから。
「ほんとにやるの?」
「やるもん。ルールは相手の『愛してる』を多く耐えた方の勝ち。目を逸らしたら負けね」
「引き分けは?」
「サドンデス」
聞いておいてなんだけど、俺は一回目で負ける予定だから聞くまでもなかった。
「じゃあ私からね。あい……してます……です」
一宮さんが目をキョロキョロさせ「です」だけ上目遣いで俺を見た。
「これは俺の不戦勝?」
「は、恥ずかしいよ! 皆戸君は言えるの!」
「逆ギレしないでよ。俺は一宮さんを愛してるから言えるよ」
一宮さんが顔を真っ赤にしてうずくまった。
(なるはど、可愛い)
自分が恥ずかしがる前に壮大に恥ずかしがってくれると、恥ずかしがる余裕がない。
「皆戸君のばか」
「……」
一宮さんの不意打ちにより、俺の胸は撃ち抜かれた。
なんかもう勝ち負けが分からなくなる。
もしも『愛してるゲーム』の勝ちが『相手の胸を撃ち抜く』とかなら俺の負けだった。
俺も一宮さんもしばらくの間動けなかった。
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