人狼当てゲーム
「ねぇりーちゃん」
「なに、ゆーちゃん」
「呼んでみただけー」
「えー」
(和むけど……)
そしてなんだかんだの結果、
今は俺を含めた三人で密会現場でお昼を食べている。
「結局多々良さんって一宮さんと友達になりたかったの?」
「いつまでもそんなこと言ってる
「別にいいけど」
「もう少し私に興味持たない?」
聞いても教えてくれない相手に同じことを聞き続けるなんて意味がない。
決して興味がないとかではない。ただ、知らなくても困らないと思っただけだ。
「皆戸君って友情破壊ゲームって知ってる?」
「一宮さんからは聞きたくなかったけど知ってる」
一宮さんが何を思って今そんなことを聞いてきたのかは考えないでおくけど、友情破壊ゲームとは読んで字のごとく、やった後に友情が破壊されるゲームだ。
有名なところでは、赤と緑の配管工事屋さんのゲームがそれだ。
「なに、人狼でもやるの?」
「三人だとワンナイト? でもせっかくやるならもう少し人がいる時がいいな」
「それは大量の人との関係が壊れるってことだよ?」
「壊れたら修復するもん」
壊れるのが分かっているのなら最初からやらなければと思ってしまうのは駄目なのだろうか。
「じゃあこうしよ。皆戸君が村人で、私とりーちゃんのどっちかが人狼と占い師なの」
「それって答え決まってるけどやる必要あるの?」
俺が村人で二人が占い師と言って、俺がどちらを選ぶかというゲーム。
だけどそんなのは俺が一宮さんを選んで終わる。
「私を吊った場合は、心優しい人狼りーちゃんが悲しい目をしながら森に帰って行くの」
「言い方がずるいでしょ」
人狼姿の一宮さんが見た……、いとかはなく、一宮さんの悲しむ姿なんて見たくないのだから真面目にやらなければいけない。
「今エッチなこと考えた?」
「考える訳ないでしょ」
「人狼姿のりーちゃんになら食べられても本望とか」
「……ちょっと何言ってるのか分からない」
少し違うが、それはそれでいいのかもしれないとは考えていない。断じて。
「今度本格的な友情破壊ゲームを考えておくね」
一宮さんが笑顔で(おそらく内心は激怒)恐ろしいことを言う。
「一宮さんを怒らすな」
「原因は皆戸君だからね?」
「多々良さんでしょ」
「二人ともだよ!」
一宮さんが拗ねるように頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「可愛いね」
「ほんとに」
「もう怒った。トロッコ問題するよ」
「それはなんか倫理的にどうなの?」
トロッコ問題とは、自分がトロッコの分岐点を操れる場所に立っていて、そのまま進むと五人が轢かれるが、レバーを操作すると一人の方に切り替わるというもの。
この場合だと、どちらかに一宮さん、もう片方に多々良さんが立っていることになる。
ちなみにトロッコに轢かれる人を抱き抱えて避難させるとか、トロッコをどうにかして脱線させるとかなどは禁止されている。
「あれってさ、レバーが全部倒れたら変わるの? それともレバーの角度と同じだけ曲がるの?」
「知らない。でも倒れてから変わりそう」
「もしもレバーと同期してるなら、真ん中で止めれば解決なんだよね」
「実際そういうのが禁止って前提なだけで、全員が助かる方法は結構あるからね」
一番簡単なのは脱線させること。
本物のトロッコを見た事がないから分からないけど、トロッコが分岐点に着いたところでレバーを下ろせば、引っかかりそうだ。
他にも線路に通せんぼをすればそれだけでいい。
「……」
「一宮さんが本格的に不機嫌になってきたんだけど」
「私としては見てて面白いんだけど、そろそろ皆戸君に選んでもらおうか」
「あ、まじでやるのね」
そうして、多々良さんがスマホに付いていた猫? のキーホルダーを取って、背中に回して両手で混ぜた。
そして一宮さんに右か左を選ばせ、一宮さんは右を選んだ。
多々良さんがどちらにそれを持っていたのかは見えなかったけど、おそらくこれで人狼は決まった。
「ねぇ、これってゲームなの?」
「ゲームだよ。あくまでワンナイト人狼の最終投票。決して皆戸君が私とりーちゃんのどっちと村に生き残って、二人だけのハネムーンをしたいかを選ぶものじゃないよ」
「だから言い方よ……」
そんなことを言われたら一宮さんを選びたくなる。
だけどそれは一宮さんの満足いくところではないのだろう。
あくまで公平に選んばなければいけない。
「話し合いはあるんだよね?」
「もちろん。じゃなきゃ、ただ皆戸君が好きな方を選ぶだけの生々しいものになるし」
「分かってるならやめようよ」
「それはりーちゃんに言ってよ」
「やめない」
即答が返ってきたので始めることになった。
「はーい、私が占い師。りーちゃんを占ったら人狼だったよ」
「……泥棒猫」
一宮さんがボソッと呟く。
「りーちゃん。そういうリアルなのやめよ。私の精神がもたないから」
「あ、つい本音が」
「皆戸君、どうしよう。泣きそう」
気持ちは分からなくもないけど、一宮さんのは全て演技なのだから気にしたら負けだ。色んな意味で。
「ちなみに本当は私が占い師で、嘘しかつかないゆーちゃんが人狼だよ。まぁ人狼だから嘘つきなのは当たり前のことだから責めないであげてね」
「ほんとに泣いていい?」
「もう少し我慢して」
これはあくまで演技だ。
ゲームが終わればいつもの優しい一宮さんに戻る。
だからその潤んだ瞳をやめてくれ。
「一宮さんに聞いていい?」
「うん。私は嘘つかないから」
一宮さんはそう言って多々良さんをチラ見する。
「知ってる。俺の知ってる一宮さんは嘘なんてつかないよ。いつも優しくて、たまに抜けてるところもあって、真面目で、とってもいい人だから」
俺が一宮さんの目をまっすぐ見ながら伝えると、バッと視線を逸らされた。
「そんな一宮さんが嘘をつくはずないよ。だから教えて、一宮さんは本当に占い師なの?」
占い師と言えば、紫のローブに、紫のトンガリ帽子。
それを一宮さんが着てるのも可愛いけど、どうしても人狼姿の方が見たいと思ってしまう。
そういうゲームではないのだけど、手には狼の爪ともふもふの毛、足も同様。そして耳には狼の耳。そして体は大事なところだけを隠して、露出度の高い──。
「俺死ね」
思いっきり階段の手すりに頭を打ち付けた。
「皆戸君!?」
「ごめん、ちょっと煩悩をね。それで一宮さんは占い師と人狼のどっち?」
ジンジンする頭を無視して、おそらく赤くなっている俺の額を眺めている一宮さんに再度問いかける。
「皆戸君は、私が狼さんだったら処刑する?」
「え、しないけど?」
別にこれはちゃんとしたワンナイト人狼ではないのだから、ルール通りに進ませる必要はない。
要は『人狼当てゲーム』なのだ。
「一宮さんが人狼だとして、俺か多々良さんを襲うの?」
「襲わないよ」
「ならそもそも処刑する必要ないじゃん」
「そっか」
「ゲームのルールねじ曲げてる。私が泣いた意味は?」
多々良さんが制服の袖で涙を拭いながら言う。
「ごめんねゆーちゃん。勝つ為とはいえ、思ってもないことを」
「ちょっと思ってたでしょ」
「……そんなことないよ?」
一宮さんが貼り付けたような笑顔で言う。
きっと多々良さんも気づいていたのでろうけど、言うとまた泣くことになるから何も言わずに一宮さんに抱きついた。
「そもそもこのゲームってなんで始めたんだっけ?」
「一宮さんは思い出さない方がいいよ。多々良さんが泣くから」
「そう、私を泣かさない為にも思い出さないで」
「うん?」
本当に忘れている一宮さんにほっとする。
こうして、本当に俺以外には強いことが証明された一宮さんであった。
ちなみに人狼は一宮さんだったらしい。
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