いいところ
「ここが逢い引きの現場か。つまり修羅場だね」
「ちょっと何言ってんのか分かんないから」
放課後、一宮さんと三組の教室に向かい、一宮さんが多々良さんを呼び出した。
多々良さんは俺の顔と一宮さんの顔を見て何かを察して、俺と一宮さんの密会場所である屋上手前の踊り場までついて来てくれた。
「一宮さん、この頭のネジが飛んでる子が多々良さん」
「紹介酷くない?」
多々良さんが頬を膨らませながら俺をジト目で睨む。
そうは言うが今の多々良さんはその紹介で合ってると思う。
それに、一宮さんからの視線が痛いから、場を和ませたい。
「やっぱり仲良しさんだよ……」
「一宮さん、百歩譲って仲がよく見えるのは認める。でもそれだけだからね?」
「浮気男の言い訳みたい」
「うるさい。それ以上言うなら関係を改める」
俺がそう言うと、多々良さんが無言で頭を下げた。
「やっぱり……」
「そういう感じなんだ」
何故か多々良さんがニヤニヤしながら俺の方を見てくる。
「顔が腹立つ」
「一応私女の子」
「知ってる。それがなにか?」
「また一宮さんが勘違いするよ?」
「分かってるならやるな」
「人の恋路って外から見てるの楽しいんだよ?」
(悪趣味な)
そうは思うけど、思うだけで留める。
これ以上は本当に一宮さんが取り返しのつかない勘違いをしそうだから。
「一宮さんはどうしたら信じてくれるの?」
「私は別に皆戸君を束縛する権利ないから……」
「そういうのいいから。それ以上そういうこと言うなら一宮さんと二度とゲームをしないからね?」
もちろん嘘である。
俺自ら一宮さんとの接点を捨てる気はさらさらない。
「やだ」
「じゃあ選んで。俺を信じるか、自分を信じるか」
「私は?」
「多々良さんは余計なことしか言ってないから除外」
「酷い……」
微塵も酷くない。
さっきから一宮さんの心を乱しているのは多々良さんであって、諸悪の根源と言われても仕方ない。
「一宮さんはさ、皆戸君とゲームをしてるんだよね?」
「え、うん」
多々良さんがいきなり一宮さんに声をかけると、一宮さんが少し驚いたように返事をする。
「じゃあ簡単にいこうよ。私と一宮さんでゲームをして、勝った方が皆戸君を自由に出来る権利を貰うの」
何か勝手なことを言い出したけど、それなら一宮さんに変な誤解をされなくて済む。
「それでいいじゃん。一宮さんは勝つんだから」
「その自信はどこからくるのさ。一宮さんって皆戸君に勝ったことないよね?」
「なんで知ってるのかは置いといて、確かに俺は負けたことないよ、あくまで俺にはね」
一宮さんは俺とゲームすることが多いが、何も俺だけとゲームをしてる訳ではない。
俺の妹の友莉や、一宮さんのお姉さんともやってるらしく、その勝率は百パーセント。
「一宮さんは何故か俺にだけ負けるんだよ」
「へぇ……」
多々良さんが一宮さんにジト目を向けると、一宮さんがスーッと顔を逸らした。
「一宮さん、どんなゲームする?」
「わ、私はまだやるなんて言ってないよ」
「やらないなら私の不戦勝で、皆戸君は私のものだからね?」
「それはやだ!」
一宮さんが叫ぶと同時に俺の腕にしがみついた。
(……今日はいい天気だぁ)
多分考えたら負けなので、思考を止めた。
ちなみに外は曇り空だ。
「皆戸君が上の空。私も逆の腕貰って両手に花ごっこしようかな」
「あげないもん!」
一宮さんはそう言うと、俺に後ろから抱きついた。
(ほんとにやめようよ、理性飛ぶよ?)
もうなんだか柔らかいところが色々と当たってクラクラしてくる。
一宮さんは本気だから、下心丸出しの俺が全て悪いのだけど、自重して欲しい。
「そろそろ皆戸君が一宮さんを襲っちゃうから決めて。ゲームをするのかしないのか」
「……する。絶対に勝つから」
一宮さんが俺越しに多々良さんを睨む。
傍から見たら隠れてるようだけど、実際は俺を独占しようとしているのだから、ちょっとやばい。
嬉しすぎて軽く死ぬ。
「ほんとに皆戸君がやばそうだから内容決めちゃお」
「やばい? よく分かんないけど、やっぱり皆戸君を独占出来る権利が貰えるんなら、皆戸君のことをいっぱい知ってる方だよね」
「一宮さん、やめよ。それは駄目」
二人のことには口を挟まないつもりだったけど、それ以上は俺が死ぬ。
「それでいこう。ガチストーカーである私を舐めないことだよ」
「自分で言うな。警察呼ぶぞ」
「まずは、なんだかんだ言って優しいからほんとに私が困ることをしないところ」
「始めんな!」
こうして始まってしまった。
俺を辱めるゲームが。
「うん、皆戸君はとっても優しいからね。じゃあ私は、どんな時でも私とゲームをしてくれるところ」
「一宮さん、俺のライフは──」
「実は照れ屋なところ」
「分かる!」
(諦めました……)
こうして、謎のゲーム『皆戸 快斗のいいところ探しゲーム』は続いた。
一応勝者は一宮さん。
よく分からないけど、俺は一宮さんのものとなった。
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