かくれんぼ
「
教室に着き、席に鞄を掛けて隣の一宮さんに声を掛けると、一宮さんは何も言わずに教室を出て行った。
「……」
正直に言うとかなりショックだ。
絶対に俺に原因があるのだろうけど、それが何か分からない。
つまり仲直り? が出来ない。
そんな事を考えていると、周りから鬱陶しい声が聞こえてきた。
「電撃破局だ」「あの感じは浮気?」「バカップルでも喧嘩するんだ」「つまり今が狙いめぇ……」なんてくだらないことを言うものだから、最後の奴を本気で睨んでしまった。
(浮気、はしてないよな。喧嘩……もしてないし)
鬱陶しいが、客観的な意見は馬鹿に出来ないので、少しでも情報の欲しい俺は周りの声に耳を傾ける。
「そういえば昨日の放課後に、一宮さんが泣き出しそうなぐらい悲しそうな顔で歩いてるの見た」
「やっぱり浮気?」
「浮気現場を目撃したのか。最低だ」
勝手な妄想で俺が悪者にされているが、そんな事実はない。
確かに
(考えてても仕方ないか)
こういうのは時間が解決してくれると言うが、必ずしもいい方にではない。
それにそんな悠長に待つつもりもない。
思い立ったら即行動だ。
普段なら思ってから行動まで時間を置いて、挙句にやらない俺だけど、一宮さん絡みなら話は別のようだ。
ガヤを無視して教室を出て一宮さんを探す。
探すと言っても目的地は決まっていて、一宮さんを見つけるのに時間はいらなかった。
「見つけた」
「……」
一宮さんは屋上手前の踊り場で体育座りをしていた。
俺を見る瞳が少しうるんでいるように見える。
「一宮さん。一つだけ確認させて。俺と一緒に居るの嫌になった?」
一宮さんがふるふると首を振る。
とりあえずは安心だ。
「それなら良かったよ。一宮さんに嫌われたら学校来る理由ないし」
これは嘘ではない。
俺が学校に来てる理由の九割、正確に言うなら
一宮さんに嫌われたら学校に来なくなるのかと言われたら、別に来るけど、その先は卒業まで灰色なのは確定だ。
「隣いい?」
俺が一宮さんの隣を指さすと、一宮さんが頷いて答える。
「じゃあ失礼」
「……」
「……」
「……聞かないの?」
「何を?」
やっと一宮さんが口を開いてくれたと思ったら、またも黙ってしまった。
「ちなみに今のは気まずかった訳じゃないからね? どうやったら一宮さんが話してくれるかなーって考えただけだから」
「私って最低だよね」
「は? 怒るよ?」
「怒ってるよ……」
一宮さんを最低なんて言う奴は、たとえ一宮さんでも許さない。
「私ね、
(知ってる)
だけどそれをわざわざ言う必要はない。
せっかく一宮さんが話してくれるのだから、邪魔はしないで話を聞く。
「それでね、話してる内容は聞こえなかったんだけど、途中から自分のやってることの最低さに気づいたの」
俺としては気づいていたから別に気にしていないが、そういう話ではないのだろう。
「だからね、帰ろうって思ったの。だけどね……」
一宮さんはそこまで言うと、俺の左腕を見る。
「皆戸君はさ、あの女の子に告白されたんだよね?」
「一応? からかい目的だけど」
「やっぱりそうなんだね……」
一宮さんがそう言うと、自分の膝に顔を埋める。
「一宮さん。ちゃんと話して」
「……」
「俺はこれからもずっと一宮さんと仲良くしたいんだよ。その為なら何でもする。だから一宮さんの気持ちを教えて」
ここで「話しかけないで」と言われたら、嫌だけど一宮さんの気持ちを尊重する。
一宮さんが何かを抱えているのは確かだ。
それが解消出来るのなら、俺は本当に何でもやる。
一宮さんが望むのなら、二度と関わらないことだって……。
「ずるいこと言うよ」
一宮さんは何も反応しないので、そのまま続ける。
「俺は一宮さんとの『かくれんぼ』に勝ったよ」
俺は隠れた一宮さんを見つけた。つまりは一宮さんとの『かくれんぼ』に勝ったということ。
一宮さんはゲームなんて言ってない。
だからこれは俺の勝手な押し付けだ。
「勝った俺にはご褒美があるはずだよね?」
「……」
「それとも、俺の勝ちをなかったことにする?」
なかったこともなにも、元々何も始まっていない。
だけど一宮さんなら……。
「負けたなら従わなきゃだよね」
一宮さんはそう言って頭をゆっくり上げる。
「ありがとう」
「話せばいいの?」
「うん。なんで一宮さんが俺を避けるのかを」
「……皆戸君が嘘ついたから」
「嘘?」
言われたことにまったく心当たりがなくてそのまま聞き返す。
俺は生まれてこの方、嘘なんてついたことがない。
ブラフは嘘に入らないだろうし。
「皆戸君、私とずっとゲームしてくれるって言ってたもん」
「するよ? なんでそれが嘘になるの?」
「だって昨日の子に抱きつかれてた!」
ずっと声が掠れるぐらい小さかった一宮さんの声が、いきなり大きくなった。
「あの子とっても嬉しそうだった。皆戸君の顔は見えなかったけど、きっと……皆戸君?」
「ごめん、あまりにも意味の分からないことを言うもので」
さっき嘘はついたことがないと言ったが、あれは嘘だ。
意味は分かる。
要は多々良さんと仲良さそうに(一宮さん目線で)話していた挙句に、多々良さんが俺の腕に抱きついたから、告白を受けたと勘違いしたようだ。
そんな事を言われたら、嬉しすぎてにやけるのを我慢しなきゃで、真顔になるのは必然だ。
「すごい勘違いしてるみたいだけど、確かに多々良さんには告白されたよ? でもそれは本気じゃないし、万が一、億が一にも本気だったとして、俺は好きな人がいるから多々良さんと付き合うことはないよ」
「本気じゃなかったら抱きついたりしないと思うけど。でもそうだよね。皆戸君には好きな人、大切な人がいるもんね」
ここで「バレてる!?」なんて思うのは浅はかだ。
もうさすがに慣れた。
「皆戸君には友莉ちゃんがいるもんね」
「言うと思ったよ」
何故か一宮さんの中で俺はシスコン判定されている。
別に嫌いとまでは言わないけど、アニメや漫画のような妹大好き人間には見えないと思うけど。
「まぁそれでいいけど、とにかく俺は多々良さんとは付き合ってないし、告白を受けるつもりもない。こっちが意識してるって思われて馬鹿にされたくもないし」
「多々良さんってかわいいの?」
「可愛いけど、それ必要?」
あくまで一般ではの話だ。
天上人である一宮さんとは比べることが出来ないのだから。
「かわいいんだ。じゃあ皆戸君が好きになっちゃう可能性もあるんだね?」
「ない」
「すごいはっきり。絶対?」
「それが恋愛的な意味なら絶対」
人としてなら結構好きな部類に入る。
「それがほんとか見たい」
「つまり?」
「多々良さんに会いたい」
「……」
全然いいのだけど、それだと少し困ったことがある。
「やっぱり付き合ってるの……?」
「違くてね。俺は多々良さんの連絡先を知らないのね? つまり教室に行って呼び出さないといけない訳よ。他クラスの人の呼び出しってなんか嫌じゃない?」
単に俺が人と話すのが嫌いだからなのだけど、職員室に入るぐらいに俺は他クラスの人を呼び出すのが嫌だ。
「皆戸君って、変なところで変だよね」
「よく分からない罵倒をありがとう。まぁ多々良さんも一宮さんと会いたがってたから会うのは大丈夫だと思うよ」
「なら私が呼べばいい?」
「ごめんね」
「ううん。私が会いたいんだもん」
一宮さんがやっと今日初めての笑顔を見せる。
やはり一宮さんには笑顔が一番似合うと、そう思うのであった。
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