じゃんけん
(バレてるんだよなぁ)
放課後になり、一人で呼び出された校舎裏に向かっていると、可愛い追跡者もついてきた。
おそらく本人は上手く隠れていはと思っているのだろうけど、俺が振り向くと慌てて隠れているのが見えてしまっている。
(可愛いから放置するんだけど)
そんなことを考えながら呼び出された校舎裏に向かう。
正直さっさと文句を言って終わらせ、
「あいつか?」
校舎裏に着き、人影を探しながら歩いていると、一人の女子生徒を見つけた。
うちの制服は学年の区別がつかないので、何年生かは分からないけど、制服が新しい感じがするからおそらく同級生だ。
おそらく毎朝時間を掛けて作っているであろう、ウェーブ? が掛かっている長い髪。
薄くメイクでもしているのか、どこか作られたような顔。
なんとなくだけど、俺とは別次元に生きている人間に見えた。
「あ、っと
俺を見つけて一瞬驚いたように声をかけてきた女の子。
今の一瞬で親近感が湧いた。
文句は言うけど。
「あんたが流した噂に迷惑してた皆戸だけど?」
「そ、れは……ごめんなさい」
確信はなかったけど、自分から認めてくれて助かる。
女の子はしっかり腰を折って頭を下げている。
「別に謝らなくていいよ」
「それって許してくれるってこと?」
「いや? 許さないから謝らなくていいってこと」
正直もうどうでもいいのだけど、なんとなくこの子は面白い気がした。
「そ、えっと……。どうしたら許してもらえますか?」
「だから許さないって。あぁでも、噂を流した理由次第では考えなくもないかも?」
「それは……」
「言えないなら話は終わり。じゃあ」
俺はそう言ってきびすを返す。
「ちょ、っと待ってください。噂のこととか、それ以外にも皆戸君に話したいことがあるんです」
「それが俺を呼んだ理由?」
「はい」
女の子はソワソワしながら俺を見る。
「じゃあ話して。話さないって俺が判断したら帰るから」
「は、はい。えっと……。ちなみに何から聞きたいとかはありますか?」
「まずは名前?」
「あ、名乗るのを忘れてました。私は
多々良さんはそう言うと、またも腰を折って頭を下げた。
俺と一宮さんは一組なので、授業で一緒になることはほとんどないからおそらく初対面になる。
「それで噂を流した理由と俺に話したいことってなに?」
「えっと、一応その二つは同じ理由と言いますか……」
「それは話す気がないって判断でいいね?」
俺はそう言ってもう一度きびすを返す。
「あ、すいません。あ、待ってくだ……ひゃい」
多々良さんが謝ったら俺が止まると思ったのだろうけど、俺が止まらず立ち去ろうとしたら、手を握って止めたけど、慌てて手を離した。
ちなみに顔は真っ赤だ。
(いい反応)
見た目は陽キャのギャルみたいなのに、中身は陰キャの人見知り巻があって、やはりとても親近感が沸く。
(高校生デビューかな?)
勝手にそう結論付けて多々良さんを見ると、必死なところに可愛さを感じる。
「それで?」
「皆戸君っていじわるって言われません?」
「たまに?」
一宮さんには一週間に五回ぐらいは言われる。
褒め言葉として受け取っているけど。
「ちゃんと話せてるのはそのおかげなので文句は言えないですけど」
「敬語になってるけどね」
「……えっと、私が皆戸君を呼んだ理由を言うね」
どうやら無意識だったようでせっかく戻った頬を赤く染め、無理やりタメ口に戻した。
「私、皆戸君のことが……しゅきなんでしゅ……」
(90点をあげよう)
多々良さんは耳まで赤くなっているからおそらくわざとではない。
ちゃんと言いたいことだけを噛むところも高評価だ。
「つまり、俺のことが好きだから俺をここに呼んだと。噂を流したのは一宮さんと一緒に居るのが多かったから?」
多々良さんが頷いて答える。
「それは30点かな?」
「え?」
「なんか理由がありきたりだからね。好きな相手が異性と仲良くしてるから、付き合ってる噂を流して気まずくさせるって誰でも思いつくし。本当のこと話さないならもう帰っていい?」
そろそろ後ろの方が隠れられていない。
多分話が聞こえないからと、体の半分が見えている。
「嘘じゃなくて、ほんとに好きなんです!」
「そう。もしもそれが本当だとしても、俺は初対面の多々良さんを今、好きにはならないよ?」
万が一にも多々良さんの発言が真実だったとしても、俺には好きな人がいる。
それを叶わぬ恋だと諦めて多々良さんの告白を受けるのは嫌だ。
だから嘘でも真実でも、ちゃんと断らないと不義理になる。
「今、ですか?」
「ん? うん。さすがに会ってすぐに好きにはならないよ」
ちなみに俺は一宮さんと隣になって初めて話した時には好きになっていたけど。
「分かりました。じゃあ姑息なことはやめて、堂々とアプローチします」
「頑張れ〜」
「なに?」
「ほんとに反応が薄い。まずは女の子として意識させようかなって」
「そこまで身を削って何がしたいのさ」
「それは鈍感なの? それとも気づかないフリ?」
ちょっと何を言ってるのか分からないので、腕を引き抜こうとしたが、完全にホールドされていて抜けない。
しかも女の子特有の柔らかさもあって少し戸惑う。
「無理やり押し付けた意味はあったかな?」
「ほんとに身を削りすぎだって。とりあえず離してよ」
「やーだ。このまま一緒に帰ろ」
「一緒に帰る相手いるからやだ」
「なら一宮さんも一緒に──」
「じゃんけんぽん」
「え、ぽん」
俺がパーで多々良さんがグーを出した。
「勝ったから離して」
「そんなの決めてないじゃん」
「一宮さんならどんなゲームでも勝った時のご褒美はくれるんだけどね」
「くっ、他の女の子と比べるなんて……」
多々良さんはそう言って俺の腕から離れた。
「じゃあね。別に俺は多々良さんのこと嫌いじゃないから」
「それは好きってこと?」
「言い換えればね」
そう言って俺はその場を立ち去った。
一回だけ後ろを向くと、多々良さんが顔を赤くしてへたりこんでいた。
これ以上構うと一宮さんが痺れを切らすかもしれないから放置したけど。
だけど俺は気づいていなかった。
ずっと見ていた一宮さんが居ないことに。
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