「皆戸君、ゲームしよ」


「いいよ」


 昨日は一宮さんのお母さんとお姉さんとの初対面があったが、それで何か変わる訳でもない。


 今日も今日とて一宮さんと俺はゲームをする。


「何するの?」


「昨日皆戸君が帰った後にお片……付けして懐かしいのが出てきたの」


 綺麗に片付いているように見えたけど、それでも片付けをするなんてよっぽど綺麗好きなのだろう。


 決して片付けたものを部屋に並べ直している時に見つけた訳ではないはずだ。


「皆戸君これ知ってる?」


 一宮さんはそう言って鞄から昔流行った、卵から生まれる謎生物を育てるゲームを二つ取り出した。


「懐かしい。やったことはないけど存在は知ってる」


 昔、妹が欲しがっていたけど飽き性な妹は買ってもらえなかった。


「これでどっちがちゃんと育てられるか勝負しよ」


 このゲームはまさに人生だ。


 生まれてから自立するまでの道のりを体験出来る。


 今にして思うと、放置すると死ぬとか、育て方によってどんな風に育つか変わるなんて、命の尊さや親の大変さを教えたかったのだろうか。


「皆戸君?」


「なんでもない。二個あるってことはお姉さんの?」


「うん。私がピンクでお姉ちゃんが水色なの」


「昔からピンクが好きだったんだね」


 一宮さんはピンクのものを好んで使う。


 消しゴム然り、部屋のベッドや机なんかもピンクだった。


「可愛いから。皆戸君は何色が好き?」


「これってのは無いかな。なんとなく黄色が好きだったけど、普段使いするものは基本黒だね。でも昔は青が多かったか」


 好きだからその色で揃えるとかはしないけど、黒系のものを使うことが多い。


「どんな色でも好きってことだね」


「いい言い方をすればね。逆も言えるし、染まりやすい性格とも言える」


「皆戸君は自虐がすぎるよ。私は皆戸君みたいに誰とでもすぐに打ち解けられるのはいい事だと思うよ」


「俺がいつ誰と打ち解けたよ」


 俺は人付き合いが苦手だから誰かと打ち解けることなんてない。


 こうして一宮さんと話せているのは、一宮さんの人柄の良さのおかげだ。


「確かに学校では私と話してるところしか見ないけど」


 一宮さんが嬉しそうに言う。


「でも知ってる? お姉ちゃんって初対面の人と仲良く話すことないんだよ?」


「なんで?」


「なんかね、信用が出来ないんだって。だから表面上では笑顔にしてるけど、内側では相手の腹の中を探ってるって言ってた」


 やはり俺とお姉さんは似た者同士だ。


 俺が人付き合いが苦手なのも、相手が話してることを信じれないから。


 きっと内心では何か別の理由があって話しているのだと勘ぐる。


「でもそれならなんで俺と話せたの?」


 俺がもしお姉さんの立場なら、こんな何考えてるかわからない奴を信じることは出来ない。


「なんでって、皆戸君はいい人だから」


「一宮さんがそう思ってくれるのは嬉しいけど、いい人ではないよ。それにもしそうだとしても、お姉さんがそう思うことはないでしょ?」


 俺もそうだけど、人を信用出来ない人が一度話しただけで相手を信用出来ることはありえない。


 それこそ一宮さんのような裏表のない、わかりやすい人でなければ。


「お姉ちゃんが『少年はわかりやすいから気に入った』って言ってた」


「……そういうことですか」


 一宮さんにはバレていないこの気持ちのおかげでお姉さんからの信頼を得られたようだ。


 いいのか悪いのかわからないけど。


「それとね『妹の春を応援したい』とも言ってた」


「多分そういう人だから俺もお姉さんを気に入ったんだろうな」


 おそらくからかっているのだろうけど、悪い気はしない。


「やっぱり皆戸君もお姉ちゃんを好きになったんだ……」


「そうだね、一宮さんを含めて二人目だよ」


「私も?」


「うん、俺のお姉さんへの気持ちが『好き』になるんだとしたら、一宮さんにも同じかそれ以上の気持ちがあるから」


「……そっか」


 一宮さんが驚いた顔から、笑顔になる。


 その反則級の笑顔を視線から外し、話を戻す。


「それで俺は水色を使えばいいの?」


 そう言って一宮さんの持つ水色の小型ゲーム機に手を伸ばすと、一宮さんが水色の方を引いた。


「皆戸君はピンク」


「それって一宮さんのじゃ──」


「嫌……?」


 一宮さんがとても悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔で俺に言う。


「嫌な訳ないでしょ」


 俺はそう言ってピンクの方を手に取る。


(むしろ一宮さんが使ってたやつを使え──)


 俺は自分の頬を思いっきり殴った。


 一宮さんに悪影響だからやはり一度死んで心を綺麗にした方がいいと思う。


 だけど心配した一宮さんに頬を撫でられて、内心喜んでいる自分をもう一度殴ろうと思ったけど、そうなるとご褒美でしかないからやめた。

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