マルバツゲーム
「皆戸君、私の『かいとくん』元気に育ってるよ」
「……そうだね」
数日前から始まった俺と一宮さんのゲーム。
どちらがよりよく育成が出来るかという勝負だが、育てているキャラに名前が付けられるらしく、二人で悩んでいたら、一宮さんが「お互いのにする?」と何気ない様子で提案してきた。
一宮さんが何も気にしていない様子だったので、俺か変にあたふたする姿を見せるのが嫌だったのでその提案を受け入れた。
今では結構後悔している。
「あ、『かいとくん』がお腹空いたって。何食べたい?」
「俺に聞かないで……」
一宮さんは悪気とか無しに毎回聞いてくる。
食事ならまだいい。それがトイレだと気まずくなってほんとに困る。
だからって俺が言うと完全なセクハラになるから言い返すことも出来ない。
「これって勝ちの基準ってなんなの? 育て方がいいのになったら勝ち?」
「んーん。これって二つあると結婚が出来るんだけど、先に好きになってもらえた方の勝ち」
「なってもらえた方ね」
正直話が入ってこない。
考えてはいけないことばかり考えてしまう。
要は『かいと』と『りんご』という名のキャラが結婚する。
それだけなのは分かっているけど、いるけど。
「好きになってもらえるってことは魅力的ってことだから」
「なるほどね」
(俺の名前で育てられると負けそうだな)
俺なら絶対に『りんご』を好きになると確信出来る。
「お世話終了。でも最近『かいとくん』とお世話ばっかりで皆戸君とゲームしてないかも」
そもそも育てることがゲームでけど、確かに最近はそればかりで一宮さんと直接ゲームをしていない。
「休み時間も少ないから簡単にマルバツゲームしよ」
「勝つのも負けるのも難しいものを」
九マスのマルバツゲームは引き分けにするのは簡単だけど、勝つのも負けるのも結構難しい。
時間が無い時にやるゲームではないと思う。
「引き分けなら引き分けでいいの。私は負けてないし」
それは考えた。
今までのゲームは俺が全て勝っている。
だから引き分けに出来たら初負け回避になる。
「ちょっとずるいけど、代わりに先行を譲るね」
「どっちでも引き分けに出来るからって」
別に一宮さんに負けたら何かを失うとかはないからいいのだけど。
俺が勝っていた理由は、ただ一宮さんの本気に本気でぶつかっていただけだから。
「皆戸君、どうぞ」
一宮さんに差し出されたノートには格子状に線が書いてある。
俺は少しだけ考えて左下に丸を書く。
「え、いいの?」
「いいよ」
確かに普通は真ん中に丸を書くのが一般的なのかもしれない。それでもいいけど、こっちの方が勝ちやすい。
「じゃあ私は真ん中を貰うね」
一宮さんはそう言って真ん中にバツを書く。
「じゃあ俺は」
俺は最初の丸の対角線上の右上に丸を書く。
「引き分けしかないからって適当にやってない?」
「真面目だよ。てか俺の勝ちだから」
「何を言ってらっしゃる」
正直、最初のバツを真ん中に書いてくれた時点で俺の勝ちは決まっている。
次に一宮さんがどこに書こうと俺の勝ちだ。
「じゃあ私は引き分け狙いにさせてもらうよ」
一宮さんはそう言って左下にバツを書いた。
俺は逆に右上に丸を書く。
「リーチを潰してリーチを作ったね。でもそのリーチを潰せば……」
一宮さんも気づいたようだ。
今俺は左の上下と右上を取っていて、ダブルリーチになってることに。
「もう一回!」
「えぇ……」
一宮さんは有無を言わさずに次のマルバツゲームを用意する。
今度も俺が先行のようでさっきと同じく左下に丸を書く。
「二度も同じ手は受けないよ」
一宮さんはそう言って今度は右上にバツを書く。
なので俺は左上に丸を書いた。
「今度はちゃんとリーチを狙ったね。でもこれで引き分け確定だよ」
一宮さんはそう言って左の真ん中にバツを書いた。
確かにこれで俺のリーチは潰された。
「それでも俺の勝ちなんだけどね」
「そ、そんな訳……」
俺は次に右下に丸を書いた。
「ダブルリーチ完成ね」
「……」
今度は左の上下と右下を取ってダブルリーチ完成だ。
「もう一回! 今度は先行と後攻を交代!」
「いいけど最後にしてよ? それと引き分けでも勝ち越しで俺の勝ちだからね?」
一宮さんが頷いて答える。とても集中してるようだ。
「いくね」
一宮さんはそう言って左下に丸を書いた。
どうやら俺と同じ方法を取るようだ。
正直後攻勝ち目はほとんど無い。
あるとしたら先行のミスだけだ。
なので俺は右下にバツを書く。
そして一宮さんが真ん中に丸を書く。
俺はリーチになったのを潰す為に右上にバツを書く。
「ん?」
そして一宮さんが左の真ん中に丸を書いた。
「これ! ダブルリーチだよね? これで私の勝ちに……」
「ならなくてごめんね」
俺はリーチになっていた右の真ん中にバツを書いた。
賭けだったけど、一宮さんの頭に「ダブルリーチ」しかなかったおかげで俺のリーチを隠すことが出来た。
「……」
さすがにもうやらないようだ。
一宮さんはノートを片付けて真顔で俺を見ている。
可愛いからそのままでいいのだけど、罪悪感が酷い。
俺は悪くないけど。
そして少しするとチャイムが鳴り、授業が始まったけど、一宮さんは授業中ずっと横目で俺を見ていた。
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