ゲーム大好き一宮さん
とりあえず 鳴
消しゴム
「
「なに、
俺の隣の一宮さん、可愛らしい見た目と優しい口調の女の子。
こういう子を世間では『美少女』と呼ぶのだろう。
実際俺も席が隣になるまではそう思っていた。
可愛くないと言いたい訳ではない、ただちょっと特殊なだけで。
「消しゴム忘れちゃったから必要になったら貸して欲しくて」
「いいよ、もちろんタダでは貸さないけど」
(始まった)
一宮さんは普通の美少女ではない。
ゲームが大好きな美少女だ。
「消しゴムを貸すか貸さないかゲームで決めようか」
「俺が勝ったら貸してくれるってこと?」
「そう。今回のゲームは商品が消しゴムだから消しゴムを浸かったものにしよう」
一宮さんはそう言って自分のふでばこからピンクの消しゴムを取り出した。
「おろしたてを使おう」
「もしかして二つ持ってる?」
「うん、皆戸君が忘れた時用に」
一宮さんはこういうところがある。
一宮さんが言いたいのは「皆戸君が忘れた時にゲームを出来るように」だ。
断じて俺が忘れた時に貸せるようにではない。
「ちょっと嬉しくなっちゃったじゃんか」
「え?」
「なんでもない。それでゲームの内容は?」
「机の端から消しゴムを飛ばすっやつは普通すぎてつまんないから『消しゴムキャッチ』と『消しゴム取り』どっちがいい?」
言いたいことはわかったけど、これを言いたい。
「どっちも同じじゃん」
「ふっふっふー、違うんだなこれが」
一宮さんがドヤ顔をする。
このドヤ顔が俺は結構好きだ。
「まず『消しゴムキャッチ』って言うのはね──」
「相手が落とした消しゴムをキャッチするってゲーム?」
「そ、そうだよ。じゃあ『消しゴム取り』はね──」
「何かの合図で先に消しゴムを取った方の勝ちってゲーム?」
「……」
そしてドヤ顔からの頬を膨らませたむぅ顔までが完璧な流れだ。
「どっちもやろうか。引き分けだったら消しゴム飛ばしで決めよ」
「余裕ぶってられるのも今のうちだからね!」
一宮さんはそう言って立ち上がった。
身長が低いから立ち上がっても俺の座高を少し超えるぐらいだ。
どうやら先に『消しゴムキャッチ』をやるようだ。
「こういうのは心理戦だよね。皆戸君はなんで消しゴム忘れたの? もしかして私とゲームがしたくてわざと忘れたのかな?」
「……」
単純に宿題をやってて忘れただけだ。
だけど一宮さんとゲームがしたいのは事実だからなんとも言えない。
「無視なんて酷い……」
「いや、無視した訳じゃ──」
「スキあり!」
「ないんだけど」
一宮さんが落とした消しゴムはちゃんと俺の手の中に入った。
「むぅ、さすがだね。でも私がずっと取れれば私に負けはないんだよ」
一宮さんはそう言って自信満々に椅子に座った。
俺はさっきの一宮さんと同じぐらいの高さに手を持っていく。
「じゃあいくよ、せーの……では落とさないんだけど」
「私にそんな心理戦は効かないよ」
そう言いつつ一宮さんは手を閉じていた。
そこには触れないが。
「そんなに甘くないのですよ」
「俺の勝ちね」
「え?」
俺は床を指さす。
そこには一宮さんの消しゴムが落ちていた。
「やっぱり皆戸君は魔法使い!?」
「そうかもですね」
魔法なんてもちろん使えない。
簡単な話だ。
一宮さんがまばたきをした時に消しゴムを手放しただけ。
「ずるいって言う?」
「言わないよ。たとえズルでも見破れなかったらズルじゃないもん」
こういう真面目ところが一宮さんのいいところだ。
自分が勝てないことを相手のせいには絶対にしない。
「そんなだからなぁ……」
「なに?」
「別になんでも。次やろっか」
そうして次の『消しゴム取り』も難なく勝った俺は一宮さんから消しゴムを借りる権利を勝ち取った。
これまでも何回か一宮さんとゲームをやってきたが、俺の全戦全勝。
一宮さんはゲームが大好きだけど、ゲームが弱い。
そんな一宮さんとゲームをするのが俺の楽しみになっている。
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