Episode.3...Final Attack.―――とある二人の男女の会話―――

 


「やっと、描いた世界の時を止めた。君、読んでみてくれ」

「いいよ、達郎君」

 ―――後ろ手から、影に潜む彼女の声。

「僕は、やっと、君にだけは知ってほしかった想いがあったんだ。それは、君に関する感想もそうだし、恋や道についてもそうだけど、単純に、僕の気持ちを知ってほしい」

「そうだったんだね」

 ―――クスッ、と笑う姿に僕は圧倒される。

 大人になった僕こと私は、大人のような言葉づかいを辞めた。もう、そんなことをしてまで格好つけなくて良い関係になったからだ。

「色んな人と巡り合ったんだね」

「君も知っている人だったりもするんだけど、僕の一等星のような『彼女』は知らないだろう?僕は、僕らしくここにいた方が良いと思ったんだ。だって、いつも変わらず、『彼』が飛んでいるから―――」

「たったそれだけでここにいるの?」

「空の通り道に人は集まる。僕も空に見染められているんだよ。君は違ったけどね」

「私は違ったな。子供みたいなバカ騒ぎをしたけれど、大人になっていくに連れて、色んな事を知ったから。NoodleとPastaの違いもそうだし、男子も背格好も服も、道の行き先だって変った。私Englandにいるんだよ、今は」

「そうだったんだ。次いつ会えるか分からないね。もう根拠のない約束を交わすのは止めにしよう。全ては目の前にある事に、向かっていくしかないんだろうね。僕らの道は、多分Micro単位で変化している。その変化を逃していたようだ」

「そうかもね、貴方が言うのであれば、そうなのね」

 僕は、悔しくって、傍にあった紅茶Latteをそっと一口飲んだ。甘くない味付けだったけれど、僕には、何かが足りなかったわけではない、という自信はある。ただ、向こう側の意志がそうさせていたんだろう。

 すべてが全に向かうために。

 すべてが個に収束するために。

 僕は大人になっていった。無事に、夢のSphereは暖められ、全世界へと散っていった。

 Crystalのかけらのように。

 僕は口を開いた。

「じゃあ、僕は戻るよ。彼らが待ってる」

「私は、まだここにいるけど、貴方には逢わないかな。丁度島の用件で用事があってさ」

「忙しいね」

「忙しいよ。時計の様子を一々気にはしなくていいけど。単純に貴方が次を描きたくってワクワクしているのが分かるから、ね?」

 そう言って、彼女はWinkした。

 いつになっても大人なのだろう、彼女は。時計の様子を気にしなくていいのは、仲間達に会うための休暇だ。それを隠そうとしたのは分かっている。

 僕が適わなかった理由が分かった。余計なことは気にしなくていいということなのだろう。

 新作の執筆に戻った。

 わき目も振らず、闇に向かうような混沌の世界の中で、僕は何を考えればいいのか。

 僕はMemo帳に執筆を辞めた。

「―――ふむ、面白い。そんな世の中もまた、あるんだな、と」

 僕は独り言を誰にも聞こえないようにいった。面白いだけじゃ、務まらない仕事だろうけれど、多分、僕の未来は明るい。

 飛行機のLightのように―――。 

[Pilot]

 ―――やっと達郎君のShowが一つのPhaseを終えたようだね。

 やっと君達は新たな冒険を始めるだろう。

 Showは君達を待っている。

 そのShowは恐らく友達以上恋人未満の会話だけれど、本命の彼女には心得ているだろう。だって、彼らは友達なんだから、友情の壁を超えることはできない。

 達郎君にとって多分一番必要なものは、彼女ではないだろう。

 そんな味方が誰もいない中、そっと暖かい言葉を投げかけてくれる友人ではないだろうか。

 私も一友人として、Showを開催している。

 ささやかながら見ていってほしい。

 では、また会おう。

 星が照らす闇空の下で―――。

『Good bye、達郎君。また逢う日まで。いつか』

 ―――飛行機に乗った彼を見送ると、すーっと、広がった闇に、かすかなSignを発している星の光が点々とうき上がっている。

 僕らは何を残して消えていくのだろう?

 達郎は、作家にこそなったけれど、描くモノに不安を感じていた。この先、何かを描くだけでいいのか、何か経験しておかなくては多分これ以上上質なものは描けないだろう。

 ふと、僕の思い出の中に、影がよぎる。そのSilhouetteは、由真だった。不思議の国のAliceを連想させた、彼女。夢みたいな国の中で、彼女は一体何をしているんだろう?

 Italyで弁護士とは言っていたけれど、肩書じゃなくって、人々の熱い思いや願いを叶えようとするにあたって彼女が夢中になって取り組んでいることって何なんだろう?電話で聞いてみることにした。

 僕は、自転車を取り出して、公衆電話の元までCyclingにいくことにした。夏の暑い最中、夢幻の闇が体温の温もりを包み、興奮が銃弾のようにはじけ飛んだ。

 電話を掛ける、こと数秒。

「由真か。今そっちで何してる?」

「Barで一杯やってるわ、友人とも、祭りの話で盛り上がっているわ?Italyの祭りでRace大会に誰をBetしようか、賭けしてるの、参加する?あんたも」

「―――そうじゃない、大事な話なんだ。多分、君は弁護士をしているんだろう?」

「どうしたの、急に」

「そこで、一体何をやっているのか、と聞いているんだ」

「いや、そこで何やっているかだなんて、Bossからの依頼を聞いて、書類作業や、法廷に出ることも珍しくないけど、家庭裁判所くらいが関の山。大きなヤマはないわ。あんたのためになるような話持っていければよかったんだけどね」

「そうか、すまない」

 電話を切って、Elizaに会うことにした。まず身近に住んでいる、というのがそもそも発着点だった。夜、公衆電話のついでに、Elizaの元へ向かう。子供の騒ぎ声が田舎中に響いているから、どこだか分かりやすい。暗くってもおかまいなしだ。

「どうだ、Eliza、元気していたか?」

「おっ、君が友人の達郎君だね。宜しく。私は、Elizaの夫のElaineだよ。女と間違われることがしょっちゅうでさ、笑えるだろう?」ハッハッ、と快活に笑うSportsman shipの屈強な体を見せつけた。夏の焼けた男の肌は、Energyで満ちていた。

「ああ、宜しく」達郎はそういうと、Elizaの元へ行った。すると、Elizaは、今Showerを浴びているから、終わったら声かけるよ、といった。

 子供と遊んでいてくれ、といった。

「すまないね、何も出せないで」

「僕も急に来たから」

「リサ、ご挨拶しなさい」

「どうして、オジサン作家になったの?」

「こら、そんな失礼なこと聞くんじゃありません」

「失礼というよりも、興味深い質問だよ、Elaine」達郎は続けた。冷蔵庫を指さして、Bask-style Cheese cakeがあるから、とだけ言って立ち上がろうとしたので、達郎がそそくさと取り出す。豪勢なお食事会となった。

「多分、難しいだろうね、神様のお導きもあるけどさ、そんなことなんてどうでもよかったんだよ、実は。彼女に喜んでほしくってさ、ただそれだけで、ちょっとね」そういって、指で大きさを確認するように、人差し指と親指で示して、チーズケーキをつまみ、Wineを頂いた。

「彼女さん、元気?」

「本来、僕がいたから張り切って家事してもらうことなんだろうけれどね、中々悩んでいたみたいで、僕が一応全て世話をやってるよ。もう彼女は疲れ切って寝てる。不安だったんだろうね、放浪する間、何も手にせず、神の指針だけ手にして、人を探し回っていたそうだよ」

「私も会える?神様」

「多分」達郎は言った。「でも、すぐには幸運をもたらさない。約束するよ」

「そっかぁ……夕陽が無くなるのとどっちが早い?」

「頭の良い子供だ」達郎がそこで言葉を切った。「夕陽よりかは、早い。君は生きているんだ。特殊な体しているなら、あの祭りの時点でお告げが発動しているはずだから。神もそこまで残酷じゃない。君が知らないということは、自然とできるはずだよ、君の追いかけている何かも、きっとそばにある」

「……ありがと、おじさん!」

 そういって、Elizaがお風呂から上がった後、達郎が、食事を頂いたお礼はしたよ、とだけ言うと、首を傾げていた。

「オジサンから何か貰った?」

「ううん、Presentとかはもらっていないけど」Elizaはそこで切った。「気持ちは受け取ったよ。素敵な気持ちを」

「その挨拶が一番のご褒美だ」そういって、僕は後にした。

 僕は、Pilotの住んでいる家に遊びに行くことにした。名前はとうとう教えてくれなかった。一度招待されたことがあるけど、その時は、すぐにお暇することになってしまって、中々立ち会えなかったけれど、彼は元気にしているだろうか。

「やぁ、達郎君」Pilotの彼は挨拶した。「こんな夜更けに何の用だい?」

「……Pilotとしてあなたは何をしていますか?」

「―――難しい質問だね」Pilotは悩んだ。しかし、今は空を飛んでいるわけでもないのに、どうして彼がこんなに言葉を詰まらせるのだろう、と達郎は思った。

 想いがあるからか、それとも、意志があるからか。

 願いがあるからか、それとも、抱いたものが違い過ぎるのか。

「多分、ね。なろうとすれば、君が思っていることよりも多くのことが必要になるのはわかるね」

「分かります」

「しかし、そういうことが重要じゃないんだ」

「君は、Jumpしても届かない場所までいってみたいと思ったことはあるかい?」

「あります、空に飛びたいというよりかは、ずっと違う。自分で操縦したいというよりも、自分で自由になりたいと思いました。それは空がぴったりImageに似合うなと思えたからです」

「違うんだよ、そんな優等生みたいな答えを私が言うと思ったかい?」

 そういって、紅茶のTea bagを手にした。Ice teaを作ろうとしているらしい。達郎は立ち上がると、いやいい、と制した。

「実はね、私の子供が星を見たいと言い出したんだよ。星ってどこまで遠くにあるか分からないけれどさ、光だけは放つだろう。座って一番の特等席で見せてあげたかったんだよ、夢みたいな夜にみんなで一度Night showを」

「それが理由だったんですか」

「そうさ。それを知ったら帰るがいい。君の世界はPCの中にある」

「そうですね、ありがとうございました」

「ありがとう、達郎君」そういって握手した。「私の夢を聞いてくれて、願いはかなったから予定になってしまったけれど、私は、多分子煩悩なんだろうね。空を飛ぶことを夢見ているわけではない。自由になりたいわけでもない。ただ、私の生きている限りでは、私の生きた家族が空を見たいと言えば、連れて行くだけなんだ」

「みんなのやりたい事を聞いて回っているんです、実は。作家のネタにさせていただこうかと」

「いいよ、私のやりたいことで良ければ、いつでも、そのうち君のやりたいことについても聞かせてくれ」

「私のやりたいことは変わりません」達郎は言った。「みんなのやりたいことを星に祈って叶えていただくことです。皆の願いは多分、残光となって、星と呼応する。織姫だって分かってくれると思う。多分、想いは風のように早く届けられたらなと思います」

「……分かったよ」Pilotは言った。

 僕はそこで一生の願いを聞いた。

 願いは風のように早く思いついては消えて行ってしまうものだろうけれど、僕は忘れない。彼らに向かうべき道があったのだと。

 彼らの思いは例えれば宝石だ。星の光と同じくらい尊い光に溢れている。

 そこで、僕の向かうべき道は―――。

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