Episode.4...Spline Sky


「はい。こんばんは。カササギさん」

「三人分の麦茶どうぞ」そう言って、麦茶を差し出す、矢沢と石井。ゲームはマリオカートと、初代大乱闘スマッシュブラザーズと、007ゴールデンアイというのが矢沢の定番。

 マキナの家にはあまりいかなかった。SFとは、現代のアーティストは、アイドルは、アニメの声優のファンでLIVEに行ったとか話を繰り出すのみだ。

 由真とは話を沢山した。

「理解できるのは、Star warsは火星に行けばありえるのかもしれない」そう言ってた、不思議な女子だ。どこで理系を勉強したのか知らないが。

「Star warsみたいな予測をする前に、君は少し理系を勉強したほうがいい。第一Light-saberは出来ない」

「うっそん!あれ無いとJedi戦えないじゃん」

「ある程度Coherence性の高い光を照射しかないが、最近のLaser光の照射距離から行くと、それでも直方に伸びてしまい、あの長さよりも長い光が生まれる」

「げっ、あんくらいの太刀みたいなのが良いんじゃん。マジ残念」

「現在だと、携帯型のLEDでも作ればまあそれに近いものは作れる」

「うわ、ダッサ」

「ダッサじゃない、科学の知識だ」

「科学ねえ、あんたそんなん知ってどうすんの?就職するんでしょ?」

「就職のために文系に行ったのか。まあそういう奴もいるだろう。私は単に興味があったから理系にした」

「ああそう。貴方、何故自分の意志を興味に費やすの?」由真は首を傾げる。

「面白いから、学ぶんだ。地球の一分野を定義出来るのは理系だけなんだ。文系にはそれが出来ない。文化や教育、法律、文学を知ることにはなるけれども、社会科学だけは理系に近いかもしれない。哲学とも言うけれども」

「あたしどうだって良い。適当に就職して素敵な彼氏創るんだ」

「そんなこと―――、本当に思っている?由真君。君の素敵な彼氏も、いつかは形のない虚無へと還る。形のないものになってしまう。無形の位と言うものかもしれない。合気道は知っている?」

「いや、あたしは知らない。明鏡止水くらいだったら分かるかな。無常観ともいうけど」

「正しさが全てじゃないから、君には関係のないことだけど」そう達郎は言った。「君に合っているのはあの頃の青春に載せて進むバイク。一直線に社会的になってしまって、僕の下に再び帰ってこないことを後悔しないでね」

「違うの、貴男の下に戻って収まるの。貴男は、男性として一つの人格を持って自立した存在として定義するの、そう文学を知って、あたしは多分ある程度のリテラシーと哲学を学ぶでしょうね。きっと貴男の下に還る。円環の中のウィーケストリンクの一つとして、そこに納められるティル・ナ・ノーグたる場所として、貴男を永遠のままの存在として封入するの、貴方は禁欲としての労働を課し、この世に世を受けた天なる存在としての貴男であって、星のようにそこにただあり続けるだけの存在」

 それきりラインは来なかった。んで、LEDで作ってと言う話が出来てしまい、無茶振りを振られたのだが、当然そんな材料を置く余裕はない。私が丁寧に断る、と。

「じゃあ、遊びに行って良い?久々Dinner食べたい」

 「久々じゃなくて毎日家で食っているだろうが」

 そこでLineは終わった。

 朝は繰り返す。―――あの時の楽しかった夜を置いて行って。

 「鴎さんはね、麦茶が嫌いなの」由真は言った。「麦茶って世界一嫌いな飲み物なの」

 「好きになった方が良い。許容と共に個としての麦茶の濃度は薄まっていくだろう。やがて個性を主張し、鴎さんは鴎らしくなればいい」マキナは言った。

 「あたしらしいってどういう在り方?」

 「誰にでもうまく溶け込んで、馴染んで、その人らしく振る舞って自分を隠す在り方。そう……、口紅みたいにうまくその他人を立ててさ。言えてるでしょう?」マキナは言った。

 「何で分かったの?私の本当の姿は二次元インターネット文学の姿が本物だから、お馬鹿な人が騒いでいたら、あたしだってお馬鹿になるわ。誰だって嗤いたいときなんてあるよね。自分の姿を見て笑う機会は一度たりともなかった」

 「そうでしょう。貴女はあまり面白くない。かと言ってカッコよくもない」マキナは言った。「しかし、……ユニーク」

 「特有と言う意味だね」達郎は言った。「女性的な部分を繊細と捉えだしたのは日本文化だ。差別ではない。区別だ。女性は耽美、優美さと言う文化を最初に捉えだしたのは万葉集だろう。男はその逆、ますらおぶりと言った、力強さ、壮健、荒々しさが挙げられる。しかし僕はそうだと思う。しかし僕は女性でない特有の個として、挙げられるのは、異性も同性も拒絶すると言う拒絶の意志だ。個として誰にも馴染みたくはない。誰かの代替になりたくない。誰かにとって代わる歯車になるくらいだったら、個を選ぶ。個を選択すると言う確固たる意志がある」

 「あたしは麦茶が嫌いなのもそれが理由。だって日本人が好きこのんで選びそうなどと思われていると言う思想がはっきり見えて大嫌い。日本人差別してると感じる」由真は言った。

 「確かに言えている部分が少なからず残存しているだろう。無意識ともいう」達郎は言った。「他人は仕分けするんだ。篩にかけていく。篩に掛けられて残った好みは料理することによってしか選択できない。それはFashionともいうし、己に託された社会的選択肢。社会的選択肢を増やしておくことは便利だ。他者を攻撃し、やっつけることが出来るんだから」

 「そうね」由真は言った。「社会的選択肢によって他人を攻撃する思想だと捉えたのね。違うわ、あたしはいつだって受け入れる側。麦茶は好きで嫌いだわ」

 「君は難しいね」達郎君は言った。「君はどう思うマキナ?」

 「達郎君、好みに思想を持ち込むのは良くない。人間はいつだって動物だ。頭を使って。また同時に、いつだって人が言い出した好みの全体が当てにならない。理由や思想を持ち込んじゃいけないのは、それは単に好きの集合と、嫌いの集合の中に軽々しく加えてはならないということ。物なんて現実に有ると認識しているからそうなってしまう。全ては空であり、幻想だ」マキナは言った。

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