Episode.12...孤独虫.

 この都市は福岡市から外れた北九州市で、一応船で都心の学校に通っている連中もいるが、私は市の学校を選んだ。学習レベルが十分だと思えたからだ。理系もTop Level Scaleでさすが都心に近いだけある。それだけ都心の学生は知的なのだろうか。分からないが、行きたくなる由真の気持ちは分からないでもない。それだけでもないのだろうけれど、Italyで弁護士の夢を追いかけるには、そこまでしたい、という気持ちも確かにあったかも知れない。

 細川さんは、私が告白したが、結局今そういう事考えられないし、将来の事もあるから、一概に決められないけど、それでも良いのであったら、という返事だった。そこまで考えている人にこれ以上、無理に付き合わせる事は無いだろう、と判断した。

 決裂。当然の成り行きだった。

 そして、来月から新しい生徒がやってくるのだ。俗に言う転校生である。

「Hey , Hello. Americanizeな挨拶の転校生がやってきましたよ、シュワッチ。瞳の色は鳶色だけどAsian系のAmericanです。エリザと言います。宜しく!おっかっこいい男子居るじゃん」

「すいませんが男漁りをせず、席について下さい。彼女がElizaさんと申します、皆さんもこれからも宜しくおねがいします。それでは席は鵲さんがいた席でお願いします」

「おう、宜しく。イケメンさんの矢沢っちって言うんだね。Bagに名札つけてるから分かった。後その辛気臭いのは?」

 私の事を言われたのだろうか。心外である。

「心外だな。初対面早々何てこと言うんだ。私は、鍋島達朗という。宜しくな」

「へえ、理系文系どっち?」

 また質問を振られた。何だコイツ。辛気臭いんだったら絡んでこなければいいのに。

「辛気臭いんじゃなかったのか?」

「England Jokeよ」

「Americaはどこ行った?」

「ありゃ、実は糸島出身なんだけどバレたくなくって父が会社を辞めて、Slow Lifeしたくって仕方なく。」

 また、転勤でやってきたクチだろう。そして離れていくのかも知れない。

「転勤か?」

「いや、Slow Life」

「本当にそれだけの理由でやってきたのかこんな島に?確かに大阪といった都心には近いが」

「うん。鍋島君理系文系どっち?」

「私は理系を狙うけれど」

「私も一緒」

「マジか!?わーお、Amerianの彼女連れるの良いな、お前」矢沢が茶化す。

「私の彼氏だから」そういってエリザと名乗った彼女は満更でもない様子だった。

「で、Elizaという名前は事実なのか?実は日本人だったなんていうの後出しされても困る」

「いや、マジで本当。でもぶっちゃけ後で分かることだから言うけど日本人だよ、あたし。最近DQN Name流行ってんじゃん。あれでカタカナでElizaって役所に出しちゃって」

 そう言ってElizaは肩を落とす。

「そうかそんな深い事情があるのをわざわざ聞いてすまない」

「良いのよ、良いのよ。ひくでしょ?ぶっちゃけそんなん婆さんになってまでElizaだなんて。だから転校するときも不安で」

「特にそんな事は思わないけれど」

「やった。理解ある奴でホッとした。丁寧にすっか。『それじゃあ、宜しくね。鍋島君』」

 Elizaは、どこかで聞いた風なセリフを言った。それは、鵲さんが最初に自己紹介した時のセリフだった。どこにでも有るセリフだったけれど、最初に丁寧に挨拶する奴が段々おろそかになっていくのは見ていてどうかと思うが、最初は丁寧でない人間が丁寧になる常識的な人間だと好感持てる。結局主客転倒したって、主が畏まらないとおかしいだろう、などと言う風潮なんてあってもない話であって、大事な事は相手の目線に立てるかどうかである。

「ああ、こちらこそ宜しく」

 今日は、絨毯爆撃のように様々な事が起きるが既に日常茶飯事である。

 右手が痛い。長い数式を書くのに右手は向いていない。

 左手で書こうと思っても上手く書けない。まだ幼い手なのだろうか。

「何してるの?」エリザがウインクする。

「確認、かな?自分が生きているかどうかの」

「何言っているの、鍋島君、生きてるよ?」Elizaはハッとした。

「本当かな?半分くらい死んでいる気がする。たった半分の思考だけで問題を処理しているような気がする」

「ふうん。鍋島君、Hunburger Steakってどう思う?」

「Hunberger Steakは美味しい。靴の革よりかは」

「そうじゃん。どう見たってそうだよ」

「あれって靴の革に似てない?」

「似てるかなあ?どちらかと言えば小判」

「君ってお金が好きなのかも知れないね」

「お金というよりももっと大事なことがあるから」

「何?」

「恋かな」

「どうしたの?君って随分詩的なことを言うね。鵲さんって昔居たけど、彼女よりずっと詩的だ」

「本気だすのがめんどくさいんじゃない?」

「そうかもしれない。いつだって本気なんて面倒だ。楽をしたいことだってある」

「私との恋だって面倒にならないで」

「出来る限り努力はする」

「本当に?」

 私は息をついて言った。

「分からないことを言ってしまってすまん」

「そうだろうね。恋なんてそんなもんだよ」

「どうしてそう思うのに恋が大事なの?」

「知りたい?いつまでも私の彼氏って心の闇を覗いてみようとするだろうね」

「そんなつもりは無いと思うけど、少なからず僕は君の彼氏ではない」

「嘘」

「嘘だよ。人間はいつだって本気で嘘を吐く生き物だ」

「それも嘘」

「本当だ」

「分かっているんだから。アンタって実際、詩的でもなんでもない。普通の男だって」

「だったら何で恋しようと思ったの?」

「恋に理由も、歴史も要らない」そう言って彼女は首を振る。「行こう。もう昼休みだ。屋上でKissしよっか」

「そんな事して何が楽しい?」

「確認したいこと一杯あるし」

「何を?」

「あたし、基本的に物食べないの。だったら、キスだったら十分満足出来るかどうか」

「それは理由にならない」

「そう?アンタって随分理由が多いのね」そう言ってエリザは、ハッとする。

「思考って理由に使うべきなのかな?」

「いや違うと思う。どちらかと言えば、今何したいかってこと。あっ、ひょっとしてもうKissして欲しいんだ」

「何で分かった?」

「だって、恋なんてそんなもんだよ」そう言って、手を繋いで歩いていった。

 屋上には誰も居なかった。秋は穏やかに急冷された気候に近づく。私は冬と秋を愛している。人間が活動しにくいという事が、何故こんなにも愛しいのだろうとすら思える。分からない思考である。

 最近、新しい転校生が入った。Elizaという胡散臭い転校生である。DQN Nameというのが分からず、検索したが、親はそんな単純な動機で名付けるものなのか、と納得。まあ、子供の名前なんて子供が変えればそれで終わってしまう程度の名札にしか過ぎないし、そういうものなのかも知れない。

 しかし、彼女は親が生きた証として取って置くのだろうか。心の熱を閉じ込めて、きっといつか心を取り出す時期が来るのだろう。そうして、心が冷めた時に心の中に空間を創る。彼氏との部屋を作って生活する。

 もしかして、熱を抱いたまま、一生巣食っていきていくのだろうか?

 冬も寒くなってきたし、心くらい暖めないと生きていけないのかもしれない。

 屋上に上がる。そんな可愛らしい彼女の思考にそっと私の学生服を掛けた。

 『寒い?』

『冬は好きだから大丈夫』

『そっか、どうして?』

『私、躰動かすの好きじゃないから』

『私も同じだよ』

『氷で出来た空間って美しいと感じるんだ、あたし。きっと冷えているだろうけれど、夏のじんわりとした生暖かい海の中よりかは、氷の冷ややかな美しさに私は恋い焦がれているのかもしれない』

『そうか。私も雪とか好きだよ。空が泣いているみたいで。夏の雨は何だか、無理やり汗流しているみたいで嫌いかな。最近の雨は豪快でね』

『あなたって上手い事言うときもあるのね』

『時々ね』

 そこで、会話は終わった。今は秋中を過ぎていった。時はやがて凍りつくだろう。凍てつく寒さと共に。

 そんな環境で私の空が泣く時も過ぎた。私の空は冬だったのだろうか?

 やっと、私の空は、Cerulean blueとWhite Colourで染められていく。

 暖かい太陽と共に。

 そこに、きっと生命が生まれるだろうか。

 Elizaという名の生命が育っていく―――。

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