Episode.7...哲学的呪文.
永く僅かな静寂。浅い眠りから目覚めた。
深夜二時。彼は後悔した人生だった。
彼こと達郎は、目が覚めた。
大いなる永遠のような時空の下、達郎の不明確な意識の中、時計の音が無情に流れる。ベッドから降り、小説を読んだ。フランス文学に凝った理由は、愛とは何なのか嗜好品で考えてみてみようという達郎なりの哲学だった。
ここで、とある無為なアイスブレイクをしよう。アイスブレイクというからに何が存在価値がある訳でもない。
一つ述べる。
哲学的呪文を投げかけよう。
くれぐれも自身で責任を以て後悔のない人生を送れるのであれば、この問いを抱くことは出てくるかもしれない。
己の未来に生活的価値を求める事に対して蓋然性は存在するか?
達郎はこのテーマに関して自身の将来性に期待し人生の権力者になる事を逃れてしまう極端にロックな生活の中、執筆している。
薬はもう辞めた。薬で何かが変わることを期待している訳でもないからだ。
そして、達郎は自身という人間としての仕事を辞めた。こんな益体のない人生で何かが変わることを望んでいる訳でもない。何かを期待している訳でもない。
達郎は最近才能の衰えを感じ始めてきた。
小説家としての才能である。
一応脚本自体は活きていた。まだ採用担当者たちが集まってくる。従って、描き続けている訳だが、正直編集者が鬱陶しい。出来れば会いたくない。一生遊んで暮らしたい。そんな思いで脚本を執筆しているが未だ期待は得られず苦しむ毎日だ。
当然だろう、元来から人類こそ堕落を辿る生き物であるから、それは高校生時代から学んできた限りなくレッドサインを嫌々ながら出さないと人間味として不味くなる、そんな地獄に近い事実に近い教訓である。しかし、そんな愚かな達郎にも一つの希望があったのだということに気づいた。
故にここで、ストーリー性のある脚本を執筆している。
社会人になった私として自己紹介をしよう。
私は、
昔は小説家という職業自体がある事すら知らなかった。小説なんてある程度書けば誰だって売れるだろうと信じていた。
人格は三種類あり、私という人格は開経路という広がった世界全体で使う人格だった。やがて微分され、僕という人格は内的な所属機関内の存在の人格と化すだろう。閉経路で積分可能な括られる社会でカテゴリーされていれば僕と呼ぶことにしている。近年、閉経路と開経路の境界が無くなり、社会に出ようとしているため一部廃れてしまった。僕の中でのルールである。
俺というのは、彼女と二人きりの間だけで述べたいかな、とは感じる。使った経験はない。きっと出てしまうだろう。サードパーソナリティーとしての人格が。
僕は小説を軽視していたというよりかは、小説の世界すら知らなかった。ブラックボックスであり、マジシャンのステッキで叩いてみれば鳩を飛び出すように、何故そのような職業があるのかすら不明だった。
そのように純粋無垢で天真爛漫な学生時代について話そう。
一方そんな学生時代と比べた作家こと達郎の姿。クタクタになるくらい時代遅れのありふれた格好で、今現代の格好に近いのだが、それでも達郎にとっては飽き飽きしていたFashionだった。灰色の薄いパーカーとジャージを着ており寝間着代りに着ていた。
深夜三時が過ぎた。そろそろ、達郎は微睡から覚醒し、寝つきを元に戻すためのウイスキーの入ったカラフルなグラスにロックアイスを入れる。ライムを絞り、リキュールの代わりにソーダを入れた。
このまま朝まで小説を読み進めよう。今日は壁に掛けられない日だ。
達郎の中で、そう定義した。
独りメロウなポップナンバーを掛ける。
懐かしい思い出。次々と、記憶が泡のように拡散して浮上してくる。
「どうして、音楽は僕を覚醒させるのか、というのは貴方にとって哲学的な問いにはならないかな?」突然会話を振ってきた。
達郎は驚き、飛び上がった。
ベッドに座った達郎の目の前から見て右側のブックシェルフに、いつの間にか薄暗いランプシェードにライトが点灯していた。そして、机は左側のメインテーブルとサイドテーブル合わせて二つあるが、サイドテーブルでレモングラスのアロマオイルがたっぷり塗ってあったシャルトルーズイエロー色のアロマキャンドルが点灯している。炎が灯りと共に、茂みの中から現れたウサギのように話掛けた人物の顔の輪郭を映し出す。
その素っ頓狂な人物の名は、Iliaという。昔、僕と出会った頃は、インドネシアのバリ島の出身でインドネシア籍でイリアと名乗っていた。
Iliaは、シャンパン色のチュニックワンピースを寝間着代りに着ていた。しかし、エメラルドグリーンの宝石の入ったイヤリングを身に付けていない。もうあの時代、外へ出る時は必ず身に付けていたが、煌びやかな生活は失われたのだ。
昔は、外では必ず色とりどりの宝石を身に付けていたのに、全て売り払ってしまった。その代わり格安のパワーストーンのブレスレットに凝っている。
オーダーメイドで自己主張したいというからだった。
「Shee、ちょっと待って。君の問よりもあの頃の若かりし頃をアイデアとして執筆したいんだ。君の哲学的な問いも魅力的だけれど、哲学者になるには時代が早すぎたから」
「どういうこと?」
「時代が僕を追い越せなかったんだよ」
「ふふっ、気取ったこと言うのね。貴方らしい」イリアは、起きる。40代になろうとしているのに、若々しいプロポーションを維持していた。このままドライフラワーに近い永遠になってしまうのだろうか。歩いてキッチンに行く。既に五時を過ぎていた。
僕らの中で一般的生活リズムとか生活時間の概念はない。
Iliaは、クラッカーとディップするためのチーズとミントとヨーグルトを取り出した。
Iliaの中で時が止められてしまっている。星の仕業で進むことはない、と脚本に描くつもりだった。
不死の身体とも呼べるくらい、出会ったあの頃から変化はない。
体型も、仕草も、表情も、そしてウィットに富んだ気さくな会話も。
達郎はポップなあの時代のグルーヴと共に体感し、かつての学生時代の思い出を想起する。
ソーダの入ったハイボールはいつの間にか空になった。
「Ilia、ジンジャーエール作ってくれないか」
Iliaはいつも達郎に代わって料理をする時、「いいよ、君がそういうのなら。貴方って変わらないのね」と言う。
どういう意味なのかは知らない。すり下ろしたばかりの洗った生姜と蜂蜜とレモンと砕いたナッツとミックスベジタブルと、炭酸水をフードプロセッサーに入れて出来上がりだ。いつも未希は塩気の代わりにミックスナッツを入れてくれる。アルコールが多少含んだビールをフリーザーから取り出す。ビールに未希が作ってくれたジンジャーエールを注ぐ。
シャンディーガフを試しに一口飲んだ。隠し味にオレンジピールを魔法の手法でグラスを刺し、一周させる。そして、グラスにマンダリンオレンジの香りを出して味を変えるのが達郎のやり口だった。
「なあ、イリア?どういう意味だい。その変わらないというのは」達郎はイリアと呼んだ。「すまないIlia。だったら良かった。その程度、確かにありふれているのかもしれないね。君が魅力的だから僕は魅力を演じているだけに過ぎない。君を汚したら、僕も汚れる。変わらないんだよ。いつまでも」
「だったら、あんなダストシュートに捨てられそうな顔させないで」未希は言った。
僕は機嫌の悪いIliaに小首を傾げてウインクした。
大人時代の逆走をしていた私。
達郎は社会権力的正義を貫いている人間では無かった。中学校の数学教師の言いたいことはそう言う事だったのだろうか。
「なあ、Ilia、社会は俺を許してくれないんだろうか?」
「違う違う。由真ちゃんから聞いたけれど、違うんだよ」達郎はへえ、と思った。
「というよりも、他人の将来の流れは、社会の流れによって決まっていくんだって。それが決して断絶することのないライフラインを蜘蛛の糸と表現したに過ぎないわとも言ってたね」
「時代は僕を呼ぶ時が来るのかね?」
「戯曲はいつか舞台に流れるものよ」そう言って未希は笑った。「貴方の歌だってそう。貴方の表現性は美しいから必ず社会の舞台に登場する」
「僕は歌も歌うが歌手じゃないんだよ?」
「歌もあれば舞台には脚本があってしかるべきじゃないかな。ここまで言って伝わらない?私お腹空いた。達郎、何でもいいから作って。お腹減ると、電池が切れちゃうのよ。カウンターに着いて。貴方の準備はOK?」
いつの間にか、達郎は空腹を感じた。
時計の針は七時を指す。
僕は少々話が長くなり過ぎて時間が掛かった。水分量が多く、塩気が足りないと感じていた。
だから、チリソースの入ったコック・オー・ヴァンを作ろうと決めた。
いつの間にか、長い二人言は無情に時を刻んでいたらしく、シャンディーガフは既に空になっていた。
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