Episode.6...Iliaとの会話.

―――Ilia Vectorと達郎とGlampingでの会話である。達郎が矢沢に「鍋の中身を溢さないように見張っていてほしい」と言い残し出かけていったのだった。その場面での一節である―――


 夜は夢幻のごとく熱き夜、じっとりとした空気にIliaは、眩暈を帯びた目つきで達郎に声を掛けTentから出た。達郎は、無言で了解し、矢沢に声を掛けた。

 鍋の中身を見て欲しい、と伝言を残し。

 ―――それで矢沢が全てを察した。

 彼女に何か用があるんだ、ということを。達郎はIliaと共に手を繋いでTentの外へ出る。辺りを揺らめく炎で照らすChandelierのようなLanthanumの群れ達が闇の中道案内をしている。

『さあ、どこへ行くんだい、Ilia』

『湖に行きましょう』

 しばらく鬱蒼うっそうと茂った森や畝の間を通る。辺りは暗くなりかけていた。既に陽も翳っているため、達郎達は急いだ。羽虫が煩く、大樹のかげと見間違うほど輪郭がはっきり映し出す。達郎は、何か飲み物を持ってくるべきだった、と一瞬後悔した。非常に汗をかいていたからだ。

 『体が熱いですね―――水に入りませんか?』

 『いいよ』

 傍には、私達の頭をCoolにさせてくれる水辺があった。それは、名前の付いていない私達が知っている秘密基地のような場所。矢沢も当然知っている。

 水湖に沈んでいくIliaの体。

 そこに共に入る達郎。

 宇宙のように時を止めた二人。

 二人の体は影に染まった。

 影を仄かに照らす蛍の群れ達。

 達郎はIliaに何が訊きたかったのか問うと、Iliaがゆっくりと口を開く。

『あなたの将来はどこへ向かうのですか―――?』

 Iliaが言った。

『私はどこにも行かない。私は私であるだけだ』

 達郎は答える。

『作家になってどこへ向かうのですか。そこに貴方の夢はあるのですか?』

 Iliaはか細い腕でそっと達郎の手を握った。

『作家になるということは私にとって義務であり、夢では無い。作家になることで、人生に悔いがないようにしたい。己の根拠、視点をその目に刻んでおきたいから。Amateurでもいいし、同人でもいいだろう。しかし、誰かが広く読まれることを望むのであれば、私は私を選択し、私は夢として己を描く』達郎は遠くを見た。

 望遠鏡を用いなくても、それと分かる。利用者達によるLanthanumの炎が、ポツポツと数滴の涙のようにキラキラと輝き、辺りを幻に染める。森はひそかに二人を囲い、秘密の木陰としているようだ。

 Balladを聞いたときに突然、人が魅せる哀愁をさそう想いを、Iliaは突然ふとした瞬間に思い出す。

 辺りの熱気で興させる熱情で溢れた空気を闇で満たす地球という一個の星。

 陽の関係で一羽の、蒼さを失った大瑠璃が鳴いた―――。己の誇った蒼い毛並みを誇らしくあるように。狼のような叫び声をあげながら、闇空を自由に滑空した。Iliaはその様子を見て、素敵ね、と言ったのか、詩的ね、と言ったのか分からないくらい小さな声で言った。そのどちらであっても、今の情景を一言で表すにはもったいないと達郎は感じている。一言で表せば、そうだ、Darkで染まったこの空にそっと輝く宝石のようにいつも見える。

 何故だろうか、とBasecampから持ってきた水筒のCafe・au・laitをそっと口に持っていく―――そうだ、だから。

 達郎達の描く未来は星のように輝いている、その宝石が存在するのは、そのように観測できる場所は、Air Spotしかないのだと、そう思えたのだ。

 しかし、作家になれるかどうかの賭けは、Cocktail glassに沈むCherryの裏表を当てるように困難を極めた。

 たおやかな目を細めて、真実を描くその瞳は、未来をどのように見つめていくのか。

『であれば、どうして私なんかにそのような手を差し伸べるのですか?』

 Iliaが言った。手の向かう方に達郎が立って手を伸ばしている。

『夜に光っているSignが眩しかったからだ』

 達郎はしどろもどろになって答える。

『そうならば私である必要は無いのでは?』

 Iliaは至極当然とばかりに答えた。

『でも貴女の方がSignよりもずっと光っているから、星のように』

 達郎は言った。

『そうですか?私には分からないですけれど』

 Iliaはそっぽを向く。

『そうかもしれないね』

 達郎は納得した。まあ、彼女ゆまは星というほどではない。星よりかは低級だろう。何故ならば、永く永遠に生きる体を、人を愛するために使うだなんて、低級である、でも愛さない限り、人生が終わらない宿命を持った体に一体何を問えばいいだろう?数多の人生経験を通して分かってきたことは一つだけ。

 ―――人は必ず、裏切るということだ。

『私たち、別れません?』

 Iliaは暫くして言った。

『いいだろう。しかし、君は永く生きすぎたんじゃないかね?光のように早く物事が過ぎる頃もあっただろう。若い時なんて特にそうだ。しかし、今は燕が巣を作るようにこのAir Spotにいるわけだろう。であれば私の方が多分、他のどの連中よりもましだと思うよ。今までの君は多分素敵な彼氏に出会った経験を通して、分かってきただろうけれど、他のどの男も多分最期は君を裏切るんだ。分かっているだろう、そのくらい』達郎は、断じていった。

 すると、Iliaは瞳に涙を浮かべた。Diamondのように透き通っていた水滴で滲んでしまった彼女の朧げな顔に思わず心惹かれてしまった。

 『いいでしょう。であれば貴方に賭けてみましょう。他の男も良い人はいましたけれどね、良い人過ぎる人ばっかりで裏が透けて見える人ばかりで厭になったのです。―――だから、この賽子さいころで偶数が出れば、別れませんか?私だってもう裏切られるのはこりごりです』

 『ああ、分かっている。しかし、僕は裏切らない自信がある。僕は由真の子を生んだ。由真と別れた原因は、それが星の運命でなかったことを彼女は知ってしまったからだよ。この場所は数奇な運命を辿っている。星の名の下に裏切りは存在しない』

 『―――分かったわ。賽子さいころなんて無粋な真似は止そうかしら、作家さん』そう言ってIliaは、達郎を抱きしめた。

 達郎はIliaの顔を見つめた。すると、お腹がなった。

 『いやぁ、お二人さんには悪いけど、覗き見しちゃったわ、いやあ、悪ぃ、悪ぃ』そう言ったのは矢沢だった。

 『だから、駄目だって言ったんだよ、矢沢が、達郎がGlampingで自分の料理人任せにしてほっておくなんて何かあったんだと思う、って聞かないから』そういうのは石井。

 『じゃあ、Iliaも腹減っているだろう、お前も一緒に達郎の飯食えよ。頭で考えても分からんもんよ、男と女って。Diceじゃ、男の頭は測れねえ。ちょっくら俺に話してみろ。―――お前、Iliaでいいのか?』

 矢沢は肩を掴むと達郎を見つめた。達郎は驚く。

 『Iliaで良いらしいね』

 見つめること数秒。

 1、2、3…。

 『分かった。じゃあ、俺の責任ということで、お前Ilia守れ。今度はMissすんなよ。Missはあんまりにもダサいからさ』

 そう言って、拳を握って達郎と組み交わす。

 『さあ、石井。Cupnoodles食おうぜ』

 『そうこなくっちゃ。僕のCupnoodles旨いよ』

 『お前、いい加減料理覚えろよなあ、一々Sample food corner化してるの分かってんのかぁ』

 『あ、矢沢君酔ってる。缶酎ハイそんなとこに持ってたの!?』

 『うるせえ、次、石井のTent行くぞ』

 また―――闇のように静かで、優しい夜がそこにはあるだろう。

 今度は、海のように深い愛がそこに生まれることになるのだろう。

 [Pilot ]

 

―――達郎君。君は、やっと真実の女性と出会うことになったのだね。君はAir Spotから離れるべき人間かもしれない。少なからず、私のAir Showを見るべきではない。別れは、詩的に素敵でいれればいいだろう?由真君を連れてきたときは驚いたなあ、君はやっと大人の女性を連れてくるようになったんだね、って。良い夢を見れれば良いね、って祝福したつもりだったけれど、とんだ見当違いだった。Ilia君は多分もっと大人だだろう。老獪な女性に一抹の祝福あれ。

[Pilotの意志]

 さらば、友よ。夜は詩的だろう?星の舞う日に花火が火打石を擦りつけるときの火花のように散り散りになっていって、流れ星のような炎が堕ちていく―――そこに颯爽と私が君達を闇の世界にEscortしてあげよう。結婚式を挙げた暁には、必ずまた仲人として会うことを約束しよう。

[本文]

 さあ―――闇のように静かで、優しい夜がそこにはあるだろう。

 やがて、光のように激しく、暖かな朝がやってくるかもしれない。


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