Episode.8...Lost Generation.


 〈達郎の心の中〉

 脚本を見直して懐かしい、と感じる。あの時の経験は、まやかしだったのだろう。私が作家になろうと抱いた意志は自身で決めたものだ。

 この主人公に登場する私は私ではない。あくまでも私の意志の一つを自己表現したものだ。

 夢を見ていた―――私が私となろうとする夢を。そして、存在を規定する。

 私は私を如何に隠すのか。

 私を隠すのは私の中。



 「ねぇ———、まだ?達郎」イリアは唸った。

 「そんなことを言うと、イリアと呼んじゃうよ。ラジオでも聞きな」達郎は笑った。

 「もう、失礼するわね。達郎の悪い癖だわ、あたしのお腹の事情をちっとも面倒見てくれないし、最低だわ」イリアは笑った。

 そして、達郎はPCを閉じた。キッチンへと向かう。

 達郎はキッチンに向かう。玉ねぎを薄切りにしていく。ワインは赤を使うはずだったがロゼワインを使ったアレンジにローリエとニンニクを染み込ませる。そして鶏肉を細切れに切った。レシピ通りであれば、四等分だったが、二人でナンに載せて、シェアして食べたいと思ったからだった。フライパンを熱する。パチパチと音を立てると気持ちよく感じる。バターが流れ星みたいに流れて行った。

 ここで、鍋にワインを染み込ませたものを注ぎ込む。コトコトと煮込む音は僕を穏やかにさせる。

 ラジオが流れる。Podcastに残っていたi-Tuneに入っていたradioでなく、未希はアプリでradioを聴くことにした。

 いつも気に入っている花を植えない代わりに、ハーブ、多肉植物、観葉植物を植えている、という内容の拘りのあるラジオパーソナリティーがアマチュアで流していただった。

 達郎も好きだったから一緒に聞いている。

 ジャズやボサノヴァ、洗練されたポップスがサラダボウルの様に次々と流れる。グリーンガーデンとパーソナリティーは呼んでいた。

 今日は、映画の内容だった。フランス映画は、世に出ない作品は大人しいが、実はその中に革命的な作品も多いという内容だった。パリ13区という映画の映画評価をしていた。

 「ねえ、達郎。この後、映画見に行かない?」未希は言った。

 達郎は時計を見る。すでに10時。

 ブランチだった。

 「ごめんね。ブランチだったね。出来たよ、コック・オー・ヴァン。久しぶりに作ってみたけど、どう?」達郎は、言った。「ナンに色んなものディップして食べようよ」

 氷空すら飛べる氷晶と銘打った航空ショーは、二人の男女との別れを予感させるシナリオだった。

 「あれ、コック・オー・ヴァンって赤ワインじゃなかったっけ?」未希は言った。

 「色んなWineで楽しみたいじゃない。Variationがあれば、そこに味覚の差が生まれアレンジになるかな、と思って」

 「へえ、何だか不思議ね。達郎も、料理人にでもなるのかな、と思ったけれど。昔っから料理上手だったから」

 「親が厳しくてね。料理くらい自分で作りなさいという家庭だったから」達郎は言った。 

 「僕は執筆続けるから、君はテーブルで食べてて。僕はワンプレートに乗せて部屋で食べるから」

 「ああ、まだ頑張っているのね、偉い」

 「ありがとう」

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