Episode.10...Air junction.


 こんな暗澹たる想いは晴れるだろうか……。

 何故かもめなんて撮ったのだろうか。どうしてあの時、由真に何かしてあげられなかっただろうか、などと自問する。しかし由真とは別れる間柄である。悶々とするこの感情を問う日々を送るようになるとは思いもよらなかった。

「ハロー、宮房くん」この頃ずっとこんな調子で何というか張り合いとでも言おうか、ギスギスした関係はもう無くなってしまった。それは助かったのだが、如何せんどこでもその関係をするので、学校中に知れ渡るのも時間の問題だった。

「何?」

「ちょっと話があるの、今良いかな?」

 何だろう、と思っていると、今夜由真の家に来ないか、という誘いだった。女の子の部屋に入ったことは一度としてない自分がそんなことになるとは思いもよらない。私は当然、何か作って持っていった方が良いか、と聞くと、「ありがとう。宮房くんは心配しなくていいよ。うちの母さんの料理が口に合うのかどうか分かんないけど、食べてみて。あなた料理上手いから、ついうっかり手伝わされるかもしれないけど、その時はこれ、あげるから許して」そう言うと、手渡されたのは、箱だった。

「アクセサリーが入ってる」

「バレンタインデーじゃないぞ、まだ」

「良いから受け取って」

 そう言って渡された。何故なのか、この時まで知る由もなかったが、気が付かない自分も駄目な男なのかもしれない。

「分かった。じゃあ、またな由真」

「ええ、宜しく言っておいて、あなたの優しい母親にも」

「おう」

 何故、こんなにも優しくするのか、理解できなかったが、放課後、その事が気になって由真の家まで学校の帰りに行った。すると、由真は今Showerを浴びているから後にして、と言われてしまった。仕方ないか、と思い、アクセサリーのお礼をしに来ました、との旨を告げると、「まあ、わかりました。わざわざどうも。宜しく伝えておきます」

 そう言って、問題の夜まで待った。

 すると、由真は、どんな姿なのかと思っていたが、おしゃれな格好だった。これからどこかに行くのだろうか。

「シャワー浴びてたって母親から聞いたけど、どこかに飯食いに行くのか?」

「いやどこにも、暑いから、今日は」

 そう言って、足を踏まれた。何故だかわからない。

「さあ、上がって」

 Shampooとリンスの香りと、若々しい女の香りが混じって華やかな香りを身にまとっていた。そんな由真の後をついていくと、豪華な食事が待っていた。母がFried Chickenに、Fried Onion Ring。Cakeまで作っていた。

「どうしたんだ、急に」

「最後の夜くらい楽しみたいじゃない」

 最後の夜の意味が分からなかったが、意味深である。聞き直した。

「あれ、言ってなかったっけ、私、転校するの、田舎の大学に」

 私は、手に持っていたFried Chickenを落としそうになった。慌ててつまみ上げると、平然を装った。「そうか、んでどこに?この近くだったら知ってるけど?」

「違うわ。北九州市近辺に。あたしの単身で進学が長引いて仕方ないけど。だからアンタともお別れ。バイビー。大学も多分全然違うだろうし、もう一生会うことないわアンタと」

「なんじゃいそら。ふざけんなよ。あの時の会話、何だったんだよ」

「え……私の独断と偏見で見たわ、あんたのこと。かっこ悪いかもしれないけど、賢くって素敵だわ。これからも勉強しなさい」

「余計なお世話だ。人ん家の料理さんざん食いやがったくせに、食いもん代払え」

「ウチの家の教訓知ってる?」

「知らんでも分かる」

「せーので、言ってみて」

『やったら、やり返せ』

「ビンゴー!だからあんた食いまくっていいわよ。食い放題の店だと思っていいから」

「とんだ失礼な女の言い草だな」

「煩いわね。男だけど、大食いやるの、やらないの?」

「やらさせて頂きます」

「その姿勢が、新しい彼女にあるかどうか不安だわ。あんただから許せたことよ、感謝しなさい。ついでに友達の候補として取っておくから連絡先教えておくように」

「うわ、マジで、どんだけ」

「よく、どんだけみたいな語彙だけは習得してるのね」

「うるせえ、この」

「じゃあね。バイビー。ケーキも食っていいから」

 とんだ茶番だったが、そこまで悔しがるほどの女と言うか男でもないためどうだって良い。正直好かれそうなのに、一々余計な属性を付けるからややこしくなる。それも、特別な女性以外に好かれることを意識して上のことらしい。

 まあ、私達の話なんてこんなものしかない。ひと夏の淡い出来事だったのだろう。

 私は、また新たな青春に目覚めるのかもしれない。石井くんも文系だし、矢沢は言わずとしてた文系。

 さあ、お礼も言ったし、飯も食い終わった。出ていこうとすると。

「手紙、受け取っていいから。私の机の上にある手紙」

 何だろう、と思って目的の場所にある手紙の中身を見ると、そこには英文が書いてあった。


 英文の意味が分かったものの、どういう意味か分からず、「なんじゃいそら」と聞き返すと。

「雲の中の空気のような存在。夏に落ちた髪のような存在。あなたって、とてもいて悪くない存在」

「そうか……」

 そう思って読むと悪くない。私も恋愛に自信が持てるようになるときも来るかもしれない。

「ありがとう由真」

 「おやすみ」といった。随分詩的な挨拶である。

「おやすみ」

 残念だが、由真の傍に居る者の代わりは出来なかったのだ。

 由真はちなみに女性である。達郎は昔知り合った友人の中の一部。しかしどうだっていいことだ。恋愛に沸いたわけでもない。と言うよりかは浮石のような存在。踏み越えていけるだけの強さが欲しかっただけだった。由真的には、男性を求めていた。しかし出会うのは決まって女性。何故だろう、と自問する日々が続くのであった。

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