第9話 煤牛かんなという女 弐
「アタシさ、陸上辞めたんだー。」
家から学校までの中腹あたりで、彼女はそう言った。彼女は、中学時代は3年間陸上部に所属しており、3年次には部長も務めていた。生粋のスプリンターであった彼女は、県大会でも短距離走の大会新記録を塗り替えるほどの
「おっ。『なんで』って顔してる。……まぁ、理由はいろいろあんだけどな……。」
彼女は俺の目を見てそう言う。俺に心当たりは無い。なぜなら、あの出来事はもう終わったことなのだから。あの、中学2年の冬に。
「……部活はどうすんだよ。ここの高校、中学と同じで、1個以上入んないといけないだろ。」
「そうだなー。どうすっかなー、って。」
「まだ決めてないのか? 入部届の提出、今日までだろ?」
「んー。まだ決めてない。運動部もいろいろ見学したけど、なんかイマイチピンと来ないってゆーか。」
その時、俺は担任の言葉を思いだした。『あとお前だけだぞ』と奴は言っていた。だから大人は信用できないのだ。俺を焦らせるために、奴は嘘をついたのだ。ここにも未提出の
「……
「……まぁな。」
「……。」
「……なんだよ。」
「いや、言えよ!? 何部に入ったか言えよ!? 待ってんだよコッチは!?」
「……そうだなァ……。」
しかし、隣のハンターは『俺』と『カモ』の関係を知らない。この『カモ』は『俺』にとって、並々ならぬ因縁があるのだ。簡単に
「……美術部。」
「! やっぱそうなのか! そうだよな、夏瑪、絵描くの得意だったもんな!」
俺は『美術部』と中学時代に入っていた部活の名を口にした。ただ、独りごちた。だから、こいつが何をどう勘違いしようと、俺に責められる理由はない。
「そっかー、中学からだもんなー。アタシ、夏瑪の描く絵好きだからさ、続けてくれるの嬉しいよ。」
「……おう。ありがとう。」
絵を褒められたことには、素直に感謝しておこう。残念ながら、部活として続ける気は無いが。しかし、中学時代、彼女に俺の絵を観せたことはあっただろうか。どこかのコンクールに出品したのを、一般公開などで目にしたのだろうか。
「……あの……さ。」
「なんだ?」
少しの沈黙のあと、学校の校門が見えてきた頃、改まった様子で彼女は口を開いた。
「その……。」
「……?」
「おはようございまーす!」
彼女が言葉に詰まっていると、前方から挨拶が飛んできた。校門の前には、なにかしらの委員会活動だろうか、生徒と教師が数名立って、『挨拶運動』というやつを
「お、おはようございます……。」
「……おはようございます!」
俺と
「……びっくりしたな。……で、続きは?」
「……ううん。やっぱなんでもない! じゃ、アタシ先に行くわ! またなー!」
「は? おい……!?」
彼女は先ほどの陰気な様子から一転、元気を取り戻して下駄箱に駆けて行った。あんなやつでも、何か隠しておきたいことがあるらしい。
俺はどこか、積年の
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