第4話 安藤青蓮という女 弐
「ああ、彼……『
そもそも彼女が
中学時代、美術部でしかまともに見ることのなかった彼女は、常に有象無象が周りを取り囲んでいた。そのため、誰か特定の1人と話すというより、皆に語りかけるような話し方……さながら宗教の講話のようなスタイルが常であった。彼女の周りの者は大衆、モブなのだ。『大衆』に姓名が無いように、彼女の目に入る他人には名前がない、あっても呼ぶ必要がないのだ。無論、俺もその『大衆』の中のひとりだった。
だった。そう、彼女が今こうして俺の名を口にするまでは。俺は彼女にとって、1人の『人間』だったのだ。これほど……これほど嬉しいことは……
「はァあ!? 聞いてないわよ!? なんであんたの後輩がここに来るワケ!? なんであんたに後輩がいるワケ!!?」
……ギャル。このギャルである。ありがとうな、二度も現実に引きずり込んでくれて。しかしながら、冷静に考えてみて、この水仙の態度はいかがなものなのだろう。学年が下であることが判明した男の、部活の見学どころか入室さえ拒み、あまつさえ青蓮との関係性にまでイチャモンをつけるなんて。
「私だって夏瑪くんがここに来ることは知らなかったさ。それに『後輩』は水仙にだって、誰にだっているよ。」
「そういうこと訊いてんじゃないの!」
「……? どういうことだい?」
「そっ……れは……! ~~~っ、あーっ、もう!」
子どもが駄々をこねるように、言葉に詰まると
それにしても、容姿や性格、他人からの評判に至るまで、この二人はまったく
「……水仙。彼の見学、許可してくれるかい?」
「……ど・う・ぞ!! 勝手にすれば!!」
「ありがとう。……さて、夏瑪くん。」
どうやら話はまとまったらしい。水仙は怒号と言って差し支えない口調で吼えたあと、
「ようこそ。ここは『生物研究部』。ぜひ楽しんでいってくれたまえ……!」
バッと両腕を広げ、さも盛大で
「……なにやってんのよ。バカじゃないの?」
「む。カッコ良くはなかったかい?」
「良くない。それに、楽しめるようなモノも無い!」
「そんなことないさ。ほら、『ハムちゃん』と『金太郎』たちもいる。」
青蓮は得意げにそう言いながら、窓際へと移動していく。『ハムちゃん』と『金太郎』……俺はここに来て完全無欠の彼女の『欠』をひとつ見つけた。
『ネーミングセンスが絶望的』。
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