第5話 真珠田水仙という女 壱
「……普段はなにをしてる部活なんですか?」
俺は、素朴で、核心的な疑問を彼女らにぶつけた。カラカラカラ……と、『ハムちゃん』が回し車を軽快に転がす音が、シンとした部室に響いた。
「……時に、
俺の質問はどうやらお気に召さなかったようだが、
「……まあ、そうですね。」
「うん、だよね。君が熱心に絵を描いていたことを、私は覚えているよ。」
「あぁ、ありがとうございます……なんですかね?」
彼女がそこまで見ていたとは、本当に驚きだ。俺が美術部時代に制作していた場所はと言えば、部室の
「では、なぜ今君はここにいるんだい?」
「……というと?」
なぜ俺がここにいるか。そんなものは決まりきっている。それは『なぜ彼女がこんな部活をしているのか』を知るためだ。……いや、そうだったか?
「夏瑪くん。私はね、絵を描くことは嫌いではなかったよ。」
「……! じゃあなんで……
「『なんでこの高校で美術部に入らなかったか』、だろう? だから、君と同じなのさ。」
……まさか。
「『面倒くさい』。理由なんてそれに尽きるよ。」
まったく。
「しかし残念極まりないね。私は君の描く絵が好きだったのに。」
「……! はは……そう、ですか。……ありがとうございます。」
「それで言うなら、俺も同じですよ。安藤さん……いや『部長』のほうが良いですかね。部長の描く絵、すごいと思ってました。」
「ああ……いいよ。お世辞は好きじゃない。」
「いや、お世辞なんて……
「私の描くものなんて、実物をただ上手く写してるだけさ。それに比べて、君のあの独創的な抽象画……言葉に尽くせない感動があったよ。」
彼女は少しだけ遠い目をして、『ハムちゃん』の走る、回し車を見つめていた。彼女が高校で美術部に入部しなかった理由は、ただ『面倒くさい』だけではなかったのかもしれない。しかし、俺にはそれ以上を訊く理由も勇気もないのだった。
「……っっったく!! なに
俺の
「あーーーーっっっ!!??」
溢れ出るミルクティーはテーブルをベージュに染めあげるにとどまらず、床をも
「おやおや、床まで……。」
「あああっっ!? あ……ああ……。」
テーブルと床に広がる液体は、彼女が必死になって拭くもの探して視線を泳がせているその
「少し待っていてくれ。準備室から拭くものを取ってくるよ。」
「ごめ……いたっ!? っ~~!? あっ……!?」
なにか、顔の前などで『ごめん』とジェスチャーでもしたかったのだろうか、水仙は、下ろしていた腕を上げようとした途端、テーブルの縁に思いっきりぶつけて右手を負傷。痛みに耐えかねて上半身を若干
『泣きっ面に蜂』なんてレベルでは無い。『弱り目に祟り目』、ついでにギャルの涙目であった。
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