第6話 真珠田水仙という女 弐
「おや、泣いているのかい?
「うっさい。泣いてない。」
彼女は、それはもう泣いていた。無理もない。同じ状況なら俺でさえ泣いているだろう。むしろ、よく泣くだけで済ませているものだ。常人ならば、泣いて喚いて、挙句に発狂して校舎中の窓ガラスを順に割り
「ほら、タオルを持ってきたから。私は床を拭くから、水仙はテーブルを拭いておくれ。」
「……ん。ありがと。」
俺は、せっせと床を拭く
ハンドタオルでテーブルに広がったミルクティーを拭いている彼女は、『とぼとぼ』という擬音があまりにマッチしていた。こんな俺とて、彼女にはなぜか敵視されているものの、この惨状を気の毒に思えるくらいの良心は持ち合わせている。
「あの、手伝いますよ。スマホとか大丈夫ですか? 洗ってきますけど……。」
俺がそう言うと、テーブルを拭く彼女は手を止めてこちらに首を向ける。
「あんた……。」
彼女の少し潤んだ目は、不幸な現状に悲観する涙だろう。しかし、俺がそんな彼女へ手を差し伸べることによって、感激の涙へと変わるのだ。
「なんで見ず知らずのあんたにスマホ渡さなきゃなんないのよ。あんたがテーブル拭きなさいよ。ふつう分かんない?」
前言撤回。いや、全言撤回。少しでも『噂話はしょせん噂話』と思っていた自分も悪いが、こいつはそれ以上の悪。噂話も全て真実だと確信。人が差し伸べた手を払うに飽き足らず、カウンターを入れるなど、もはや人間の心があるとは思えない。
「ちょっと。なにボーっとしてんのよ。ほら! やってくれんでしょ!? 早くここの流し台でこのタオル絞って!」
「……はい。」
俺は、決して強気すぎるギャルが怖くて従っているわけではない。これは……そう、
「こらこら、いけないよ水仙。貴重な後輩部員くんにそのような悪態をついては。」
床を拭き終えた様子の青蓮は、水仙を
「……ふん、悪かったわよ。」
彼女はやけに素直に謝罪をした。いや、謝罪にしては頭の位置が高いが、とりあえず良しとしよう。というより、彼女自身に『悪態』の意識があったことに衝撃だ。ということは、普段はこの調子では無いということなのだろうか。
「……いえ、俺こそすみません。」
「なに、君が謝ることではないさ。」
本当にそうである。この謝り
「まったく。何度目かな、そのスマホにヒビが入るのは。物は大切にしないといけないよ?」
「わ、分かってるわよ! あたしだって好きで落としてんじゃないし!」
「それはそうだが、もう少し周りに注意を払ったほうが……おっと、この
「……12回。ちゃんと覚えてるわよ……あんたに注意されたことも、回数も。」
「ふふっ。残念、15回だ。」
「……1日に2回以上言われたのは『1回』にカウントしてるの!」
……おや? おやおや? このギャル、どうやら『ドジっ
こうなると、彼女——『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます