第10話 嵐のような女たち 壱
結論から言おう。ダメだった。
あの担任の言葉、『あとお前だけだぞ』というのは、事実だったのだ。なにせ、俺はBクラスで、
では、他のクラスではどうか。煤牛がそうであるように、未だに提出していない面倒くさがり、もとい優柔不断な
わが校には、ひとクラス約30人……ひと学年に200人弱の生徒がいる。無論、俺に友達と呼べる間柄の人間が何人いるかは、わざわざ明かさずとも分かるだろうから、俺にツテというものがないのも
想像できるだろうか。なんのアテも無く、入部届未提出の人間を探す困難を。俺が見ず知らずの人間に話しかけることの苦難を。
俺は、
「……お疲れ様です。」
「ご機嫌よう、
生物室に入ってすぐ手前、ハムスターのいるケージの前で、『ハムちゃん』に餌をやりながら、
「まぁ……そうですね……。」
「あと1人、入部してくれそうな子は見つかったかい?」
「……え?」
なぜ彼女がそのことを。……いや、彼女ならば何を知っていたとしても不思議ではない。『私は全知全能だよ』と言われたところで、俺は疑いもしないだろう。それはそうと、やはり俺以外の入部希望者はいないのか。
「その様子だといなかったようだね。ふぅん……困ったものだね……。」
彼女はため息混じりに嘆いた。いや、『嘆き』というにはどうにも余裕ありげだ。彼女にはなにか解決策があるのだろう。俺は彼女を高く評価していながら、まだ信用していなかったようだ。それがどれほど愚かなことなのか。俺は自分の愚かさを呪うと同時に、自分の行動が徒労だったことに胸を撫で下ろした。
「……なにかあるんですね、解決策が。それならそうと言ってくださいよ、
「無いよ? そんなもの。」
「……ん?」
「だからこうして困っているのだよ。まったく、どうしたものかね?」
俺は全力でツッコミたい気持ちを抑えた。彼女はボケていないのだから、
またしても俺は、彼女という人物を見誤っていたらしい。彼女はただ、あまりにオーラがありすぎるだけなのだ。発言すべてに説得力がありすぎるだけなのだ。ただ、その説得力というものの後ろ盾が、有り余る実績や名声なのだからタチが悪い。
「……どうするんですか? このままじゃ廃部でしょう?」
「……そうだねぇ。なにも手立てが無い、ということも無いのだけれど。例えば、私が『口利き』すれば、他の部活の部員1人を転入させるなど、赤子の手を
「『
「うーむ。しかしね、私とて人の子だよ? 転入させられた子の『青春』に、私は無責任になれない。その子はその子が選んだ『青春』を謳歌する権利がある。」
「……『転入する』という選択も、その人の意志のはずです。」
「おや。これは一本取られたね。しかしね、夏瑪くん。」
彼女は『ハムちゃん』に与え終えた餌の袋を仕舞うと、俺のほうに、深く、底の見えない瞳をジロリと向けながら言った。
「私の言う『口利き』というものが、本当に口を利くだけで済むと思うのかい?」
どういう意味か、などと訊いたところで彼女は詳細を教えてくれはしないだろう。いや、もしかしたら教えてくれるかもしれないが、この時の俺は、それを訊く勇気を覆い尽くす、なにか得体の知れない、
俺はやはり、彼女という人物を見誤っているのかもしれない。
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