第5話 重甲機兵



 御堂や入鹿が搭乗するB級ジークフリードに対して、上位機体であるA級ジークリードが存在する。それは先程交戦したペルセウス型重甲機兵においても同様である。

 重甲機兵は、ゼナ・クリスタルと呼ばれる特殊な鉱石を骨格部分に組み込んで造られた巨大ロボットである。

 ゼナ・クリスタルには特定条件下で太陽光から反粒子を生成する。重甲機兵はゼナ・クリスタルが生成する反粒子をZCFズィーフ機関により動力とする。


 しかし、採掘されるゼナ・クリスタルは既に枯渇しているため、現在では新しい機体を新造することは困難となっている。

 今の時代に新造される機体は、そのほとんどが化学合成された人造ゼナ・クリスタルを使用している。これが俗にB級重甲機兵と呼ばれている機体である。

 天然ゼナ・クリスタルに比べて、人造ゼナ・クリスタルの反粒子の生成量は少なく出力も三分の一程度しかない。

 B級重甲騎兵は、低い出力を補填するための予備動力を搭載することでA級に近い戦闘力を得られる。しかし、その予備動力の分だけ重量が増えて機動性を損なうため、絶対的性能では及ばない。


 地表上の全ての重甲機兵の10パーセント以下しかA級機体は現存しない。数の限られたA級重甲機兵は、軍や国家を象徴するものとされるし、それを託されるパイロットも、飛び抜けた操縦技術を持つ者だけである。


 B級の機体と言えども、仮配属の新兵が機体を与えられるだけでも相当な優遇のはずである。

 入鹿の「どうせB級」発言は、御堂には言語道断であった。



「そうよ!」


 唐突に、御堂がこれまでにない大きな声があげた。


「本気で新型機サンダーバードを護る気なら、あなたが、さっきの戦いでペルセウスを引きつければ良かったのよ!あたし一人に戦わせて、あなたは後ろで何してたの?」


 もの凄い勢いで伸びた腕が、入鹿の胸ぐらを掴んでいた。御堂の癇癪に慣れているはずの入鹿が、今回は逃げ切れなかった。


「そんな臆病な態度が、って言われるんでしょ!」


 胸元を掴む拳に力が入って、入鹿の身体を引き寄せる。すると、右の腹部に硬い突起物の感触があった。


「・・・?」


 入鹿が左手に握った軍刀の柄頭つかがしらだった。機体を離れる際に、わざわざ剣をいて降りてきたようだ。


「重甲機兵に乗るのに、軍刀持って来てたの?」


 入鹿は小さく頷いた。

(いや、持ってきたことより、乗り降りにいちいち持ち出すか?)

 高ぶった感情が妙に冷める。力の抜けた御堂の右手をほどいてから、入鹿は二歩ほど後ろへ下がった。握るものがなくなり、御堂は右手は腰に添える。


「てっきり、あたしの胸に勃起したのかと思っちゃったわよ。勃起すると見直したのになあ」


 わざとらしく上体を反って胸を張り、ファスナーの間から覗く胸を強調してみせる。


は足手纏いだから下がってなさい、と言ったのは貴女あなたですよ?」


 入鹿は端末を操作してから、御堂の前に差し出して音声記録を再生させた。


『フグリなしは足手纏いだから下がってなさい』


 聞き覚えのあるような、ないような、世界で一番イヤらしく感じられる声が聞こえた。再生された自分の声は聞きたくないと思いつつ記憶をまさぐってみる。

 2機のペルセウスによる襲撃に、直ぐさま戦闘モードへ移行し前進。連携の取れない動きに勝てると直感した反面、入鹿機に前に出られたら自由に戦えないとも思った。

 一端、入鹿機の側に戻って・・・それから、また前進して。

 それ以上思い出すのを止めた。再生された自分の声を聞かされ、一気に気分は萎えていた。


「あのさ。真面目な質問なんだけどね」


 御堂は呼吸を整えたから、直感的に感じたことを入鹿に問いかけてみる。


「下がってなさいって命令に従って後ろにいたの?それとも・・・って言われたのが癪に障って、あたしのこと放置したの?」


 多分、入鹿は返事をしないだろうと御堂は思っていた。予想通り、聞いていないフリをして、入鹿は端末をイジっている。

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