赤塵のサンダーバード -機兵戦記-
星羽昴
第1章
第1話 赤塵の丘
砂塵が舞い上がる荒野に機械的な轟音が響き渡っていた。
錆びた鉄や砕けたコンクリートの瓦礫。かつて都市だった痕跡は赤茶けた砂に埋まり、荒野のあちこちからその残骸の一部を角のように突き出している。
赤塵の丘。
赤い砂塵に浮かび上がる巨大な影は人型をしていた。
およそ十七メートルの人型ロボット。その推進機関が噴き出す風圧が、赤い砂を巨体を覆う高さまで吹き上げている。
ガキン!
重く鈍い金属の衝突音が荒野の大地を揺らした後、弾かれたように深緑色の巨体が砂塵の中から飛び出した。
深緑色の巨大ロボットは、足下の安定を確保するために腰を軽く落として手にした剣を握り直す。そして、それからゆっくりと後ずさった。
甲高い駆動音は、荒野から突き出す瓦礫にも反響して大気を震わせていた。
荒野に吹く風が強くなり、舞い上がった砂塵を流す。深緑色のロボットを弾き飛ばした白い巨体が現れた。
左右に大きく張り出した肩部装甲により逆三角形に見える華奢な体躯。それは重厚で丸みを帯びた
砂塵の中には深緑の機体がもう一機いる。弾かれ、後ずさりしている同型機と同じ剣を構えて、白い機体を右後方から狙っている。
白い機体は、緩く反った片刃の剣である
右後方の深緑色の機体に剣先を向けながら、正面でジリジリと後退する機体を見据えている。
白い機体の胸部に国軍章と所属部隊を示す部隊章が描かれており、帝国近衛軍の第2戦団に所属する機体であることを示している。しかし、深緑の機体にはどちらにも何も描かれていない。
「ペルセウス型B級重甲機兵。国章、部隊章ともになし。所属不明!」
白い機体のコクピットで
戦闘に没頭してしまうと、感情的な罵詈雑言を発してしまい女子としてはライン越え発言も混ざり込む。それが部隊ミーティングで再生された時には、何度赤面したことか。
しかし、今の御堂は冷静だった。
「左椀部に小型の固定盾、武装は十字形のロングソード!」
いずれもペルセウス型重甲機兵の標準武装なので、所属を推測する手がかりにはならない。
二機の連携はお世辞にも上手とは言えず、むしろ互いに手柄を競って味方同士で抜け駆けのチャンスを探り合っている。
そこに御堂は上手に付け込み、優勢に戦えているのだ。余裕があった。
右後方の機体が突進してきた。応じて、白い機体の背中が発光する。背面の
左足を軸にして右脚引き、後方から迫まる敵機に向き直った。
ペルセウスのロングソードを、手にした刃の背である
そこへ振り上げた
キィィン!と言う乾いた金属音が響き、少し遅れて鈍い轟音を伴ってロングソードの刃部分が大地に落ちた。
御堂機の振るった一閃は、ペルセウスの握ったロングソードを
真に会心の一撃!御堂は「勝利」を確信した。
二機のペルセウスは動揺した。ロングソードを切り落とされた機体は、
それから二機が貌を見合わせるような仕草の後で、背中と脚部の推進装置を全開にして後退を始めた。
「逃がさない!」
御堂も白い機体の推進機関を全開にする。
しかし、白い機体の頭上にグレーの煙の帯が伸びる。「停止」を示す信号弾である。
反射的に身体が反応して、御堂機はその場に踏みとどまった。
「ちっ!」
舞い上がる砂塵の軌跡を残して去って行く二機のペルセウス型重甲機兵を見送りながら御堂は舌打ちした。
「・・・あの、フグリなし!」
この罵声の向けられた先は、去ってゆく敵機ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます