第2話 御堂咲耶

「どう言うつもりよ!」


 御堂の声が拡声器を通して、大音響で荒野に響きわたった。

 その声に応じて、少し後方で戦闘に参加せず待機していたもう一機の白いジークフリードB級重甲機兵が前進してきた。

 機体胸部には御堂機と同じ戦団章が描かれており、御堂の友軍機だとわかる。


 御堂機と二機のペルセウスの交戦で巻き上がった砂塵は、荒野を吹く風に流されている。前進してきた友軍機は頭部を左右に振って周囲を見回す。

 敵機が完全に視界から消えたことを確認してから腰を落とし、片膝を地面についた姿勢で動きを止める。機体の駆動音は甲高いジェット音から重く低いノイズ音に変化した。

 胸部中央部の装甲板が開き、その奥のコクピットからワイヤーを伝って若い男性が地面に降りた。


「そのまま立っていて下さい。目視で損傷の確認をします」


 若い男は大声で御堂に呼びかけながら、両手でサインを作り指示を送る。


 重甲機兵の主動力はゼナ・クリスタル・フィールド=ZCFズィーフ機構と呼ばれている。

 このZCFズィーフ機構は膨大なエネルギーが得られるが、同時に特殊な電磁波も発生させる。この電磁波は、他の電磁波に干渉してレーダーや無線通信を無効化させてしまう。

 そのため重甲機兵同士の情報伝達は、目視や耳聴によるしかないためサインや音声で行うことになる。


 御堂は取り敢えず指示に従って機体を直立させた。合わせて戦闘モードを解除する。

 御堂機の駆動音も小さく重いノイス音に変わるのを確認してから、男は御堂機の周囲をゆっくりと歩き出した。右回りで目視確認してから、今度は左周りでもう一度確認する。


「大丈夫みたいです。大きな損傷は受けていません」


 機体の駆動音が小さくなったので外の音が拾いやすくなり、男の声が聞き取れた。

(言われるまでもないわよ!自分で操縦してるんだから、わかってるわ)

 男が手招きしているのが主モニターで見えた。呼ばれるまでもない、返答を聞かないとならないないのだから御堂も自分の機体に片膝をつかせてコクピットから降りた。


「だから、どう言うつもりなのよ!」


 男と顔を突き合わせるなり、御堂はさっきと同じ問いを繰り返した。

 若い男性パイロットの名前は入鹿玲いるかれい。御堂と同じ士官候補生で階級も共に准尉である。二人は帝国士官大学校の同期生であり、半年前から帝国近衛軍の第2戦団に仮配属されている。あと半年の配属期間、計1年の仮配属を経て正式に士官として帝国近衛軍に任官することになっている。


 今回は、二人二機の分隊として特殊任務を命じられていた。


「任務は新型機の慣熟です。ロールアウトしたばかりで稼働実績の不十分な機体なのだから、過度の戦闘は控えて下さい」


 入鹿は右手を伸ばして、後ろの御堂機を指さした。

 真新しく光沢のある白い装甲が、日差しを眩しく反射させている。同じ白い装甲でも入鹿機の方はくすんで色むらがあり、更に無数の傷や変形を浮き上がらせている。

 どちらもジークフリード型と呼称される機体で、同型機とは識別できるが、御堂の新型機体と入鹿の従来型機は若干装甲形状が異なっている。


「慣熟のついでに実戦データが取れて、二個の撃破マークを付けられたら最高のデビューじゃないの!」


 あのまま追撃をかければ少なくとも一方の機体は確実に撃破できたはずだ、いや、二機ともほふれたかも知れない、と御堂は思っていた。


 士官大学校でも、御堂の重甲機兵操縦技術は、その剣技とともに同期随一と高く評価されていた。御堂自身もそれには強く自負している。

 第2戦団は帝国近衛軍ナンバー2とされる有馬月夜見つくよみ司令官が率いている。その第2戦団の本隊への仮配属は、御堂の希望通りだった。更に、新規に開発された次世代機のパイロットに抜擢されたのである。

 その評価と期待を証明するような軍功をあげたい気持ちが強くある。

(絶好の機会だったのに・・・)

 杓子定規な同期生に対して、苛つくのを隠せなかった。

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