第15話 報い
フォボスの後ろに入鹿の顔を見た時、マルスの身体で悪寒が走った。
「念入りにコクピットのある胸部を抉ったんだがな」
「ペルセウス型よりジークフリード型の操縦系は余裕があるんですよ。主動力の
ガーン!
マルスは、御堂の顔のすぐ横に発砲した。突然の銃声に御堂の身体が硬直し、嗚咽のような声にならい悲鳴が御堂の口から漏れた。硝煙の臭いに咽せそうになる。
「この嬢ちゃんを助けに来たんだろ?それなら、まず俺の仲間を解放しな」
マルスはニヤリと笑って、御堂のこめかみに当てた銃を捏ねるように動かして見せた。
振り返るフォボスも、下司を丸出したイヤらしい笑いを浮かべながら、入鹿を
狙撃銃を取り戻そうとしたが、入鹿の右手が硬く狙撃銃を握っていた。
「・・・操縦席にも身体一つ分隠す程度の余剰空間はあるんですよ」
フォボスを一瞥もせず、マルスだけを注視して入鹿は言葉を続けた。
「てめぇ!」
苛立ったフォボスが、入鹿の右手から強引に狙撃銃を奪おうとした。
バァン!
「うぎゃーーーー」
銃声のすぐ後にフォボスの悲鳴が響いた。フォボスの右耳が砕けて飛び散り、それ以上の範囲に鮮血が飛散する。マルスの顔にも鮮血が飛ぶ。
右耳を撃ち抜かれた激痛にフォボスは背中を丸めてうずくまった。
「何しやがる!」
マルスの怒声。それに反応して、入鹿が狙撃銃の銃口をマルスに向ける。反射的に、人質を忘れてマルスは入鹿に銃を向けてしまう。刹那、入鹿の右手が銃を投げ捨てて、軍刀を引き抜く。
マルスと入鹿の間の数メートルを、瞬間移動のように入鹿は跳んだ。伸び切ったマルスの右腕、その肘から先が軍刀の一閃によって切断される。
マルスには、その様子がスローモーションのように見えていた。右腕が軽くなり、そして火傷のような熱さが走る・・・そして激痛!
「うぎゃあああああ」
絶叫しながら
「銃より剣の方が得意なんですよ。剣の間合いまで待ってくれて感謝します」
軍刀の刃を右肩に担ぎ、マルスを冷たく見下ろした。マルスの身体が退けたことで、御堂もようやく立ち上がる。
玲・・・と呼ぼうとしたが、まだ声が出せなかった。
「おっと、はやまるなよ。何で俺たちが、帝国の新型機を襲ったか知りたいんじゃないのか?特にあの仮面女がよ。だから・・・俺のことは、大事にした方がいいぜ。へへ・・・」
入鹿の殺気に気付いたマルスは、脈絡のない取引を持ち出した。
「そうですか?」
入鹿の軍刀がマルスの胸を貫いた。
「心臓を外して肺の側を貫きました。刃を抜けば、肺に血が流れ込んで苦しいかも知れませんね」
マルスの顔から血の気が引く。
「なぜ、新型機を襲ったんですか?素直に喋るなら、ひと思いにお見送りしますよ?」
マルスは答えない。いや、答えることができなかった。
「ご機嫌よう」
マルスの胸から、入鹿は軍刀を真っ直ぐに抜く。口から鮮血を吐き出して、マルスは痙攣しながら
「・・・トドメがいる?」
御堂の問いかけに、マルスは懇願するように頷いた。先ほどまで、自らのこめかみにあてがわれていた銃を、マルスのこめかみにあてて目を瞑って引き金を引いた。
銃声が響き渡り、マルスの身体は動かなくなった。
「玲!こんな・・・」
御堂が入鹿へ視線を向けた時、既に入鹿は次の標的へ向かっていた。
フォボスだった。入鹿が投げ捨てた狙撃銃を拾い、こちらへ向けている。恐怖に脅える顔は右耳から吹き出す血で真っ赤に汚れ、銃を持つ両手もブルブルと震えている。そんなフォボスに、入鹿は無防備に近づいていく。
フォボスが引き金を引く。
カツン・・・カツン・・・。
弾は出なかった。
「敵の手に渡るかも知れない銃に、弾丸は残しませんよ」
恐怖と絶望。フォボスは半べそになって入鹿の前に跪いた。
しかし、そのフォボスの額に入鹿は軍刀を向ける。
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