第16話 白い天井
「やめてぇぇぇ!」
軍刀がフォボスに突き刺さる寸前。御堂は、入鹿の身体に縋り付いて止めた。御堂の体当たりを受けた入鹿は、いとも簡単にバランスを崩して倒れ込んでしまう。
何とか立ち上がる入鹿だが、足取りは
ゼイゼイと息づかいを荒くして、へたり込んでいる御堂を見て、入鹿は軍刀の血を拭って鞘へ戻した。
「大丈夫ですか?」
入鹿は御堂に手を差し伸べた。しかし、御堂はその手を取らずに一人で立ち上がって、いきなり入鹿の頬を平手で打った。
「あ・・・ごめん!」
平手打ちの直後、慌てて謝る。
「いや、でも・・・あなた、酷いよ・・・」
御堂の頭は混乱していた。言いたいこと、言わなければならないことは沢山あるはずなのに、言葉が出てこない。
「右手は大丈夫みたいですね」
撃たれた右肩の弾創からゲル状緩衝剤が流れ出しているが、血液は混じっていない。パイロットスーツは、弾丸の衝撃が吸収して生身の肉体を傷つけずに止めてくれたらしい。
「あ、うん・・・」
心配してくれてありがとう・・・と言おうとしたが、その言葉も出てこなかった。
「銃は持ってますね?」
マルスを安楽死させた銃を、御堂が腰のホルスターに戻しているのを入鹿は確認する。
「この者を生かしておくなら、
銃を手に取り、御堂は小さく頷いた。
ゴオォォォ・・・
空気と大地を丸ごと震わすような轟音が、上空から聞こえた。
「
入鹿が遠くの空に視線を向けた。視線の先には、重甲機兵を乗せたデルタ翼型空中移送機の機影が二つ見えた。重甲機兵1機を空中輸送するための輸送機で、機体を乗せた状態でも時速200キロメートルで移動できると言う。
それが二機。みるみる大きくなる機影の上には、肩に「Ⅱ」と「Ⅻ」のローマ数字が描かれた白い巨大ロボットがいる。
二番機と十二番機。どちらも第2戦団のエース級のA級ジークフリードである。
安堵・・・と同時に、御堂の意識は遠のいた。意識がなくなる直前、背中を支える腕の感触を感じたような気がした。
白い天井が見えていた。間接照明の柔らかい光に照らされる天井の白さは目に優しく、ボォとした頭でそれを眺めていた。
「・・・!」
唐突に記憶が蘇がる。
・・・A級ペルセウス。
・・・胸部に剣を突き立てられたジークフリード。
・・・入鹿の隣で見上げた第2戦団の
「おはよう、と言っても今は夜だけどね」
声の方向に目をやると、見知った白衣の女性が穏やかに笑っていた。第2戦団の前哨基地の軍医である佐野クリステア軍医だった。
顔見知りの存在に安堵し、少しづつ気持ち落ち着いてくる。壁に掲示されている注意書きから前哨基地の医療棟にある個室にらしいとわかる。
デジタル式の時計には『20:15』と表示されていた。5時間くらい眠っていたのだろうか。
ベッドから身体を起こすと、右肩に湿布薬が貼られているのに気付いた。パイロットスーツは脱がされており、下着だけの姿でベッドに寝かされていた。
「大丈夫?痛まない?」
「・・・あ・・・大丈夫です」
御堂の返事に、クリステア軍医は笑顔で頷いた。
「狙撃銃で撃たれたらしいけど、帝国軍のパイロットスーツは優秀ね。銃弾はスーツの緩衝材で止まって傷にはならなかったの。痣と打撲は仕方ないかな。念のため湿布してあるけど、邪魔なら剥がしていいからね」
ニコニコと笑うクリステアにもう一度「大丈夫です」を繰り返した。御堂の返事に「うん、うん」と頷く。それから、病室入口に設置された内線電話を取ってどこかに連絡を入れた。
お目覚めです・・・大丈夫・・・と伝えている声が漏れ聞こえ、短い会話の後で電話は切られた。
「スッゴいお手柄だったんだってね」
受話器を置いて振り返るクリステア軍医は、嬉しそうに声を弾ませていた。お手柄・・・と言われても、それが何のことかわからなかった。
それから間もなく、病室のインターホンが鳴る。
入口のドアが開かれると、上級士官の制服に身を包んだ女性が入ってきた。
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