第14話 投降
「投降する気なの?今更・・・」
膝をついて動かなくなったA級ペルセウスから、男性が降りてきた。御堂機の方へ向き直って両手をあげる。
「いまさら・・・させるかァ!」
絶叫!御堂機は握った
轟音と地響きとともに砂塵が舞い上がるが、それはマルスから数メートル左の場所だった。
「・・・ちっくしょう!」
(いや、まだ玲の生死はわからないんだ)
早まらないでよかったのだ、と自分に言い聞かせる。
御堂は拳銃を持って、
「起動用のキーカードを投げて下さい」
言われた通り、マルスはカードを御堂の足下へ投げた。パイロットの生体情報を記録したもので、このカードとパイロットが一致しないと重甲機兵は戦闘モードへ移行できない。
「膝をついて、手も地面につけて下さい」
起動カードを拾い上げて本物であることを確認する。
パイロットは30代だろう。小狡そうな顔を見ると、このまま撃ち殺してやりたい感情と帝国軍人として捕虜を正当に扱わなければならない使命感がせめぎ合う。
マルスは御堂の指示に大仰に頷いた後、言われ通りに膝と両手を地面につけた。手錠をかけるために、御堂はマルスに近づく。
バァーン!
不意に銃声が響く。
御堂の右肩に衝撃が走った。身体が後ろに押されて激痛が肩から広がる・・・銃を持つ右手が揺らいだ。
銃声の後すぐに立ち上がったマルスは、御堂の右手から銃を叩き落とした。右肩の激痛もあって思うように戦えず、御堂は組み敷かれて地面に這いつくばる格好になった。背中にマルスの体重を乗せられ動けない。
マルスは奪った銃を、御堂のこめかみに当てた。
「悪かったな。嬢ちゃん」
うつ伏せに組み敷かれた御堂には、マルスの顔が見えない。勝ち誇った笑いのこもる声に鳥肌が立った。
「投降を偽るって協定で禁止されてる卑劣な行為よ、わかってるの?」
「もう後がないんでな。嬢ちゃんみたいな礼儀正しい戦争はやってられねえよ」
マルスの左手が、御堂の身体をパイロットスーツの上からなで回した。嫌悪感に吐き気がしてくる。御堂は奥歯をかみしめた。
「やりましたね、ボス」
狙撃銃を肩に担いでフォボスが、A級ペルセウスの影から現れた。卑下た笑いを浮かべるフォボスをちらりと見て、マルスも笑い返した。マルスの左手が御堂の大腿部で止まり、左大腿部のポケットからカードを取り出す。
「これが新型機の起動カードだな?」
マルスはちらりと御堂を見たが返事は求めなかった。フォボスに向かって起動カードを投げる。
「新型のロックを外しておけ。戦闘はできなくとも、移動するだけなら問題ないだろう。時間はないぞ」
「へい、わかりました」
起動カードを受け取とると、フォボスはチラリと御堂を見る。
「このまま殺しちまうのはもったいないんじゃないですか?」
未だに現状の緊急性を甘く見てるフォボスに、マルスの声が厳しくなる。
「馬鹿野郎、ここで第2戦団のA級が来たら何もできねえんだぞ」
「そん時は、この女を人質にすりゃいいん・・・」
急にフォボスの身体が硬直し、顔色が変わった。フォボスの背後から伸びた手が狙撃銃を取り上げる。
「チッ、生きてやがったのか?」
マルスに組み敷かれている御堂からは、フォボスの背後に立つ者の姿は見えない。しかし、マルスの発言から入鹿の生存を確信できた。
「ゆっくり歩いて下さい」
聞き覚えのある声が、フォボスに指示を出した。フォボスの足が仕方なさそうに、こちらに向かってくるのは見える。
(あたしがこの男を撥ね除ければ逆転できるはず)
御堂は自分にできることを必死に考えた。
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