第6話 星間協定

「襲撃してきたペルセウスは、私設の傭兵部隊だとは思います」


 連携を無視して手柄を競い合う、統制の取れていない戦闘の仕方からも、入鹿の憶測に御堂も同意する。


「最初は・・・契約前の傭兵が、売り込みのとして帝国軍のB級を襲ってきたのかと思いました」


「あたしたちは、傭兵のにされるところだった、ってこと?」


「それなら手柄を欲しがる反面、過度の消耗を避けるために手強いと判断すれば即座に退却するはずです。あんなに食い下がるのはあり得ません」


「そんなに食い下がってきたっけ?ロングソードをぶった切ったら、直ぐに退却したじゃん」


 新兵ながら御堂の戦闘技術は高い。入鹿の「食い下がる」戦闘も、御堂の感覚では「あっさり退却した」に過ぎないようだ。


「交戦報酬を目当てでエセ交戦を仕掛けたら、新型機がいたから悪戯してみた・・・ってこともありえない?」


 傭兵は『通常』と『交戦』で報酬が異なる。形ばかりの戦闘を仕掛けて、交戦時の高額報酬を得るのも傭兵が行う稼ぎ方だ。その場合も、過度の損失を受けないように本気の戦闘しない。

 傭兵同士なら暗黙の了解があるし、正規軍相手なら剣を交えて直ぐに後退する。


「それなら所属を隠匿しないでしょう。所属を明示しないで戦闘を行うのは星間協定違反ですから」


 星間協定。地表に存在する複数勢力と宇宙に進出した宇宙コロニー勢力の間で躱された、最低限にして絶対的なルールである。

 それぞれの勢力間で飽くことなく続けられてきた戦争・・・その抑止力となるべく『残酷な行為』や『卑劣な行為』を禁止するために定められた。

 残酷な行為を禁止する反面、その違反者に対してはかつ報復を容認すると言う矛盾もある。


「星間協定に違反する戦闘行為に報酬は支払れません。報酬をつり上げるために、報酬が得られない可能性のある戦闘をするのは合理性に欠けます」


 入鹿は、端末に先ほどの戦闘中のペルセウスの画像を表示させた。


「二機のペルセウスとも、正規部品で全身が整備されています。正規部品を潤沢に使えるってことは、正規軍が傭兵に偽装しているか、正規軍から非合法な仕事を請け負っている傭兵のどちらかですよ」


 御堂はB級ペルセウスとの戦闘を思い返した。そう言えば、剣と盾が二機とも新品だった。

 重甲機兵の剣の鍛冶技術は帝国が突出している。他勢力には、ジークフリードが装備する打刀うちがたなのような薄く軽い刃を鋳造できない。

 強度を出すためには厚く幅広の刃にするしかない。それでも芯と表層の硬度差が大きく、剣をぶつければ表層部分が剥がれてしまう。硬質な表層を失った剣は、容易く曲がったり折れたりする。

 ペルセウス型重甲機兵の剣は、消耗品である。新品を常に補充し続けるには、入鹿が指摘するような背景が必要だろう。

 そこで御堂もある事実に気付く。


「それってさ。他勢力が、帝国の新型機を狙って仕掛けてきた、と言うこと?」


「はい。ですから、一刻も早く戻ってこの事実を報告すべきです」


「それなら、やっぱりさっきの戦いで追撃して撃破すればよかったのよ」


 撃破してその機体の個体情報を解析すれば、背後関係を探る手かがりになったはずだ。


「それは、仰る通りでした」


 入鹿も、あっさりと御堂の主張を認めた。


「しかし、敵側の規模が不明ですから、次の襲撃を想定するのは同じです。それまでの時間が、長いか短いか・・・今は、稼いだ時間を有効に使う事を考えましょう」


 さすがに反論が思いつかず、御堂も小さく頷く。任務途中で帰還するにも、正当な理由があるならそれでいい。

 とは言え、入鹿の言いなりになるのも感情として納得しきれない部分もある。


「マザコンで臆病で、その上おしゃべりなんて・・・絶対あなたモテないわよ?」


 入鹿が御堂の顔に視線を移し、数秒、二人の視線が交錯する。今回の数秒はいつもより確実に長い。


貴女あなたが前頭葉を普通に使えるなら、僕の口数も減ります」


 入鹿の一人称は「僕」である。何度も「子供っぽいから止める」ように注意したが、それも直らない。

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