第23話 帝国の悪夢

 パイロットスーツから通常の軍服に着替えた御堂と入鹿は、整備班の面々と陸上戦艦『朱雀』の食堂へ向かった。新型機GS4に関わる兵員には、メンテナンスを担当する整備班の8名が含まれる。


「交流会のパーティやってるのに、何でわたし達は焼魚定食なのよ」


「スィーツとか食いだめしておきたかったですね」


 御堂の尻馬に乗るのは、同年代の整備兵・山根エリカ軍曹だった。

 しかし、見渡すと食堂を利用してる兵士は意外に多い。それは第2戦団から交流会に参加する兵士が、思いの他少ないことを物語っていた。

 食事を食べ終わると、各々が好みの飲み物を用意してテーブルに再度集まった。


「わたし達だけが貧乏クジかと思ったら、みんなパーティに参加してないのね」


「そりゃあ、イルドラ公国の連中と仲良くしたい脳天気は多くねえよ」


 整備班の主任を務める興田おきた浩二郎こうじろう大尉は吐き捨てるように言う。50代後半のベテラン技師だ。



 およそ40年前。後に「赤椿の変」と呼ばれる内乱が帝国を揺るがした。

 帝国民を差し置き「帝に権力が集中することを危惧」すると「帝を絶対権力者」とするは、帝国内で静かに議論を重ねているはずだった。

 突然、反帝派により当時の帝が誅殺ちゅうさつされる事件が起きてしまう。

 混乱に乗じて帝国内の権力を掌握すべく反帝派は、国外勢力と結んで内と外から侵食しようとした。この時、反帝派に呼び込まれて帝国民を迫害・略奪した中にイルドラ公国もあった。

 時の帝を誅殺した「赤椿の変」から14年後。帝の嫡子である水蛭鹿ひるか帝が武力蜂起する。水蛭鹿ひるか帝は、四散した擁帝派をまとめ上げて圧倒的な武力で、反帝派と帝国外勢力を帝国から駆逐した。

 先帝の誅殺から水蛭鹿ひるか帝の即位までの14年間は、暗黒時代として「帝国の悪夢」と呼ばれている。イルドラ公国も悪夢の象徴の一つである。



「40年なんてのは長いようで短いんだ。自身のみならず父や母が『赤椿の変』で大変な目に遭った連中はいくらでもいる。もっと若い奴だって、爺さんや婆さんの悲惨な話は聞かされるんじゃないかな」


 その「帝国の悪夢」を終わらせた水蛭鹿ひるか帝が、現在も帝位にある。反帝派と結んでいたイルドラ公国が、帝国と友好的な関係を築けるだろうか。


「イルドラ公国や反帝派の奴らは、水蛭鹿ひるか帝を殺戮さつりく帝とか呼んで、デマを拡散しながら被害者仕草をしてやがるけどな。本当に殺戮をやったのはどっちだよ」


 口に出してしまってから興田大尉は、感情的な言動に気付いて後悔する。

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