第28話 憎しみの環
休憩スペースに内線電話のコール音が響いた。稼働する重甲機兵は、無線通信を無効化する特殊な電磁波を発生させる。その重甲機兵を運用する陸上戦艦では、通信手段は無線によらない有線通信になる。
コール発信者のコード番号は士官候補生の指導官である
「士官候補生の御堂
確認の意味で官姓名を名乗った。
陸上戦艦『朱雀』は、艦内カメラとそれにリンクする顔認証システムで全艦監視されている。その監視システムにより、一部のプライベート区域を除いて、乗艦する兵士の位置はリアルタイムに特定できる。
短い会話で受話器を戻すと、入鹿に内容を伝える。
「中央デッキの乗艦口へ来るように・・・ってさ」
一樹少佐からの指示で、御堂と入鹿は格納庫へ移動する。
「ねえ。さっき、補助武装はそのままにしておくように整備班に指示したよね?」
「はい」
「フラッグ戦は模擬刀で、判定器を叩くだけの模擬戦よ。まさか、本物の戦闘になるとか考えてるの?」
「帝国近衛軍のように規律が守られる軍は珍しいんですよ。他国の軍隊では、権威や階級が金儲けの道具になってます」
その意見は、御堂も納得せざるを得ない。複数勢力間の紛争が常態化してしまっている時代である。軍事的行動にも利権が絡みついている組織は少なくないし、利権に汚染された組織に軍規や法令を遵守する意識は低い。
帝国近衛軍で
(それで一樹教官は、二階級降格になったんだ)
それ故に士官候補生の仮配属の希望者が極端に少ないとも言われていた。
「僕たちが規律や協定を遵守しても、相手が同様にそうする保証はありません」
所属不明機戦での苦い記憶が蘇って、御堂は言葉に詰まる。
「腐敗した組織は、卑劣であることが賞賛されます。卑劣な行為を行い、法や規律を犯す・・・それでも罰せられないことが地位や権威を誇示することになるんです」
それから小さな声で、入鹿が呟くのが聞こえた。
「・・・帝を誅殺した反帝派みたいに」
入鹿にしては珍しく感情が漏れ出したような言葉だった。
「イルドラ公国軍は、お世辞にも規律の取れた軍隊ではありません」
食堂で先輩の兵士に忠告されたことだ。しかし、御堂には垣間見えた入鹿の怨嗟の念が気になった。
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