第13話


「あー、疲れた。お前、重くなったな。チビだった癖に。今もそこそこチビだけどな」


 北の塔の大広場にある長椅子に座り込んだレンは、息を切らしながら階段沿いの部屋達を見上げた。


「⋯⋯本当に静かだな。人の気配が殆どしねぇ。どうなってんだ」


「レンさん、疲れてるところ悪いけど、すぐに僕の部屋まで来てください。ワラビが待ってる」


 レンの背中で少しだけ体力を回復させていたタクトは、駆け足で階段を登った。レンも後に続く。


「ワラビ、入るよ」


 ドアを開けた。

 床には、いくつかの花びらが落ちていた。その内の何枚かは、開いていた窓から外へ吸い出されるように、風に舞って飛んで行った。

 ワラビの姿は、何処にもなかった。


「嘘だろ⋯⋯!」


 ワラビが居るとしたら、タクトに思い当たる場所は一つしかなかった。


「おい、タクト。何処へ行くんだ!」


 此処まで自分を担いでくれたレンの言葉すら、タクトにはもう届かなかった。

 タクトには、元々家族が居なかった。だから施設から連れ出されたあの日、ヨミの手を握るまで、人の温もりを知らなかった。それはきっと悲しむべき事の筈だが、当時のタクトには想像も出来なかっただろう。大切な誰かを失うかもしれない恐怖というものが、この世に存在する事を。それは誰かを愛する事の代償だった。糸の世界を創る事と、同義なのかもしれない。

 

 タクトは走った。ワラビを想う気持ちと、カシワが消えた時にこうやって走る事をしなかった自分を罵る気持ちが混ざり合い、それがデタラメな力を生んでいた。

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