第19話
ヨミは手元のマフラーを膝に置いて、少し首を傾げた。
「どうだろう。今この状況が、世界の人々にとって望まないものならば、呪いだったのかもしれないね。でもね、正直なところ、私にも分からないの。あれを編んだ時、私はただ目に映る世界の全てに絶望して、私の代わりにこの世を舞台に踊ってくれる分身を創りたかっただけなんだ。それがこんな形で、人の心を結びつけるとは思わなかった」
ヨミが編んでいるマフラーには、様々な糸が絡み合っていた。色の違いと、糸の太さも違った。タクトの感が正しければ、その中の一本は、恐らくこの部屋の二人にしか見えない糸だった。
「どういう理屈か、あの影は生きていた。それならば、同じ糸で創られたこの世界も、きっと生きている。生きた世界に、生きた人が編み込まれていく事は自然の流れなんだと思うよ。それとね、タクト君があの影の影響を受けなかった事には、理由がある。私達は何かを編む時、同じものを代償にしてきたんだよ」
タクトは手に汗が染みるのを感じ、そっと拳を握った。今まで目を背けてきた事実に、向き合う時が来たのだ。
「私達が差し出していたのは、この世界に生きる人達。タクト君が直接知らない異国の地で暮らす人も、北の塔の編み人達⋯⋯ワラビちゃんやカシワさんも。皆、私達の代償として、この世界と一つになった。私達は、人の心を掴んで踊ったあの影と同じだよ」
「⋯⋯レンさんも──」
タクトが言いかけると、ヨミは深く頷いた。
「そうね。でも、レン君は死んでいないし、勿論ワラビちゃんや他の人達も、糸の世界の中で生きている。私達も、直に一つになれる。全てが一つになるから、私達は誰とでも会えるし、ずっと一緒に居られるんだよ」
ヨミは編むことを止めたマフラーの中から、一本の細い透明な糸を摘み出した。
「タクト君が欲しいのは、これだよね」
タクトは思わず手を伸ばした。触れようとしたその手を、ヨミが遮る。
「ねぇ、タクト君。“バベルの塔”の話、知ってる?」
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