バベルの糸
名波 路加
プロローグ
彼は大人しい子でした。そうですね、編み物は⋯⋯実はそれほど得意ではなかったようです。
彼が得意だったのは、あやとりです。いつも一人で、夢中になって遊んでいました。
編み物は、やり始めた頃は苦労していましたが、何年か経った頃には立派に編めるようになりました。才能はあったと思います。不得手ではあったものの、編み物は誰にでも出来る事ではありませんから。
彼よりも編み物が上手な者は沢山いました。だから彼が居なかったとしても、あの世界は成り立っていたでしょう。
ただ、彼のように複雑に編み込まれた糸の解き方を知っている者も、世界を創るためには必要だと思ったのです。糸はどれだけ美しく編んでも、時が経てば解れます。美しい世界を維持するためには、彼のような者も必要だと。
あやとり遊びが好きな彼は、糸と指で様々な形を作る事が出来ました。お星様、梯子、山、蝶、川⋯⋯。一通り作って、最後にはその糸をスルスルと解いていきます。これには決められた手順がありまして、それを知っていると、複雑に絡まった糸を綺麗に解けるのです。
だから彼は、本能に近い形で理解していたのでしょう。あの世界の解き方を。
結果的には、そうですね。私の見る目がなかったのか、或いは、この碌でもない現実を、私達は生きるべきだと教えてくれたのか⋯⋯。そう考えると、彼はある意味で、神様のような存在だったのかも知れません。
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