心霊現象考察研究会の麗人

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「ねえ、聞いてないんだけど。入部なんて!」

「大丈夫、【仮】入部だから」


 真宵はまあまあと私をなだめようとするけれど、これは許せない。

 真宵が頼み込んで二組の佐々木さんに占いをしてもらうことになったが、なぜだか私たちはその場で占ってもらうのではなく、放課後場所を指定されて呼び出された。

 そして、その結果は心霊現象考察研究会なんて部活へ強制入部させたらてしまった。

 こちらが、断るすきも与えず、上手いこと入部届に名前を書かせるその様は一流の詐欺師の気配を感じた。

 というか、いまどき心霊現象考察研究会なんて部活がよく許されているものだ。

 古い漫画とかを読むと、たまにオカルト部とかオカルト研究会なんてふざけた部活がでてくるけれど、現実的じゃないと思っていた。

 そもそも教師が足りないなか、そんな大会とかコンクールのなさそうな部活に学校は予算どころか顧問さえも与えてくれないだろう。

 そんな変な活動を許すくらいなら、スポーツや音楽などで才能のある生徒が賞をとりそれを学校の功績にしたいというのが本音ではないだろうか。

 いかにも騙されやすそうな生徒が集まって危ない方向へ全力疾走しそうな部活の存在なんて現実では認めるはずがない。

 まあ、廃部寸前の美術部とか文芸部やら天文学研究会がそういう生徒にのっとられて実質の活動をオカルト関係にされてしまうのならまだ納得がいくが、心霊現象考察研究会なんて部活の存在は正気の沙汰とは思えない。

 そして、アルバイトも部活もしないミステリアスな深窓の令嬢の私の部活処女がそんなわけの分からない部活にとられるなんて許せない。


「どうしました?」


 あまりにも頭にきて私がそんな旨のことを真宵にまくしたてていると、一人の女性が部屋に入ってきた。

 校則の規定通り膝にかかる丈のスカートなのにちっとも野暮ったさを感じさせないいでたち。

 ショートカットが似合う涼し気な瞳の美人がそこにいた。


「いえ、なんでもありません」

「あのー、仮入部ってしなきゃだめなんですかー?」


 洗練された彼女を見て、礼をただした私に対して、真宵はへらへらと小学生のように目の前の麗人に尋ねた。

 そう目の前に現れたその女性は美人であるが、麗人ということばのほうがしっくり来た。

 女性にしては高めな身長。

 だけれど、その身長でも人を威圧しないすずしげな雰囲気。

 そして、なにより彼女は骨が美しい。骨格美人であると同時に、鎖骨や手首のでっぱり、指の関節など彼女の骨がささやかでも主張する部分が彼女をより美しく際立たせていた。

 女性というのはやわらかな体つきが好まれ美しいとされるが、彼女はそこから大きく逸脱しているにもかかわらず、美しかった。

 すらりと伸びた手足に堂々としたいでたち。

 王子という言葉がしっくり来てしまうほどのイケメン……女性だけど。

 こんな人、学年にいやこの学校にいただろうか?

 全く記憶がない。

 けれど、私は気が付くと、


「お友達になってください」


 そういって、彼女に手を差し出していた。

 私は元来、美しくて特別なものが好きなのだ。

 もちろん、真宵ほど美しく特別な女の子はいないと思っている。

 だけれど、目の前にいる女子生徒はこれを機に友達にならないなんて選択肢はないくらい魅力的な存在だったのだ。


「【仮】入部の方ですね。私が副会長の佐々木です。よろしくお願いします」


 麗人はそういってから、私の手をとって握手した。

 これではまるで映画スターとファンみたいだ。


 てか、佐々木って、この人が例の占いの人なのか。顔に似合わない地味な名前だ。もと佐伯とかカッコいい名字の方が似合いだろうに。まあ、女性なので将来、凝った名字の人と結婚すればいいと勝手なことを考える。


 そして、この状態はなによりも私が心霊現象考察研究会に自ら進んで【仮】入部したみたいになってしまっていた。

 せっかく、真宵が助け舟をだしてくれていたというのに。

 私が悔しがっていると、真宵は、


「大丈夫だよ! いままで【仮】入部から本当に入部できた人は一人もいないんですよね?」


 と聞く。

 麗人あらため、二組の佐々木さんはゆっくりと頷く。


「この部活は誰でも入れるようにはしたくないんです。真に必要な人に届くように。でも部活という性質上、この学校の生徒ならばある程度は受け入れなければいけない。折衷案として、【仮】入部という形をとってその資格があるかどうか見極めさせてもらっています」


 なんて慇懃でもったいぶった嫌な部活なのだろう。

 ここが演劇部とかなら容姿端麗であることが求められるのは仕方がない。

 ここが強豪の吹奏楽部なら経験や技術が必要なのはもちろんわかる。

 ここがテニス部なら縦ロールの蝶お嬢様がいることを自然に受け入れなければいけないのも当然である。


 だけれど、こんな校舎の端っこで何をしているかも分からない心霊現象考察研究会なんて得体のしれない部活に値踏みされるなんてまっぴらだ。

 そもそも、誇り高き帰宅部は兼部は許されていない。どこかの部活に入ってしまえば即退部になるのが帰宅部だ。


 やはり、なにか理由をつけてここから抜け出さなければならない。


「やっぱり、やめます。心霊現象とか興味ないんで」


 私は慌てて、真宵の手をつかんで心霊現象考察研究会の部室から出ようとする。

 だけれど、「きゃっ」と真宵の小さな悲鳴が聞こえて振り返ると、私がつかんでいる方と反対側の真宵の手首を佐々木さんがつかんでいる。

 その様子に私は全身の血液が沸騰したかのような感覚に襲われた。

 嫉妬もあったかもしれない、だけれど何より、佐々木さんと真宵が並ぶと絵になるのだ。

 どこからどう見ても天然美少女の真宵と、作り上げられた美しさの佐々木さんが並ぶ様はどこか非現実めいていて、美しかった。

 まるで物語の中のお姫様と王子様。

 どっちも女だし、学校の制服を着ているけどそんな風に見えた。

 もしここが演劇部だったならば、私は間違いなく二人の容姿という才能を見つけ出した瞬間だった。


「やめて、わたしを奪い合わないで!」


 真宵があほなことをいうので、ふと我に返った。

 どんなに美しくても、こういうときの真宵はいつもどこか抜けている。

 美麗な少女漫画の世界にいたのに、急に四コマギャグ漫画の世界に放り込まれたような気分になってしまう。

 急に白けた私はわざと、ふいに真宵の手を離した。

 急に引っ張っていた力が片方なくなるので、真宵は佐々木さんの方によろけ倒れかける。

 慌てて、それを支える佐々木さん。

 やはり絵になる。

 私は心の中でにやりとして、必死に記憶に刻み付ける。


「佐々木さん、部員を募集していないなら、なぜ真宵を引き留めるんですか?」


 私は、まっすぐと佐々木さんを見つめた。

 大抵の人間は、急にまっすぐ見つめられるとたじろぐ。

 案の定、佐々木さんもうつむき気味になり、そっと真宵の手を離した。私はその隙を見計らい、そっと真宵を自分の方に引き寄せる。さっきみたいにならないように、今度は私の半歩後ろに立たせて私が真宵の盾になるような立ち位置にするのを忘れない。

 いくら見目麗しくても、真宵を危険な目に合わせ続けるわけにはいかないのだ。


「それは……いえない」


 佐々木さんがうつむいているせいで、その表情からなにかを読み取ることは難しい。


「なぜですか?」


 私は相手から目を離さずにゆっくりと問いかける。

 じりじりと距離を詰めるのも忘れない。


「なぜなら……行方さんと仲良くなりたいなんて恥ずかしくて言えないから」


「「えっ?」」


 意外過ぎる答えに私と真宵は素っ頓狂な声をだす。

 それにも関わらず、麗人佐々木は早口でまくしたてる。


「行方真宵さんは特別なんだ。ずっと探し求めていた人なんだ。行方さんのことはいろいろ調べさせてもらった。女子高生連続失踪事件、人形のミイラ消失事件、存在しない図書館事件。これだけじゃない。行方さんの周りでは恐ろしいほど不思議な事件が起きている。そんな特別な女の子が我が心霊現象考察研究会には必要なんだ。選ばれた人間だけが入れるこの部に選ばれたんだよ、行方さんは」


 佐々木は最後だけゆっくりと自信たっぷりにいった。

 たかだか、部活の癖になにをそんなに偉そうにしているのだろう。


「真宵、やはりこんなのにかかわっちゃだめだ。帰ろう」

「でも、テストが~」

「学生の本分は勉強なのだから、占いなんかに頼らずに勉強すればいい」


 私はぴしゃりと言って真宵の手を引く。


「占い?」


 佐々木さんは、さっきとは打って変わって無感情な冷たい声でなげかける。


「私が真宵さんにしたのは占いではありません。予言です」

「予言、ただのテストのヤマを当てただけで?」


 私はわざと馬鹿にしたように軽くあしらう。そう言えば答えを占いで教えてくれたのなら、大学入試の志望校の入試の答えを教えてほしいんだった。まだ、年単位で先の話でテストの問題さえも存在しないけれど、予言なら可能化もしれない。

 そう思ったが、さすがに口にするほど愚かではない。

 もしかしたら、このまま誘導したら、なにか好きなことを予言してくれると佐々木さんは挑発にのっていうかもしれない。そのときは、大学入試の解答にしてもらおう。それだけ聞いたら、もうこんなところ金輪際用はないのだから。


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