瓶詰の死体
※※※あらすじ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
真宵と二人で、明日の弁当をつくることにする。
家庭科室を掃除していると、そこには色んな保存食があった。
そして、瓶につめられた死体も。
いったいだれがこんなことをしたのだろう。
こんなことをできたのは家庭科室を管理している家庭科の先生だけだろう。
彼女が食べるつもりだったのかどうかはずっと謎のままだ。
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「お花見行こう。お花見」
真宵がまたどこからか情報を仕入れてきたのかなにやら楽し気なことを提案する。
桜の花には興味はないし、人ごみは大嫌いだ。
だけれど、真宵が喜ぶならそれもいいかもと思えてしまうのが自分のことながらとても不思議だ。
「いいよ」
「やったー。お弁当どうする? ちょっとおいしそうなやつをデパ地下で買う? 近所のパン屋さんのピクニック用のサンドイッチ? それとも二人でお弁当つくる?」
真宵はとても嬉しそうに、明日のお昼ご飯を提案してきた。
本当は、和菓子屋で可愛らしいお菓子とお団子をかって、お茶でも飲みながら早めにきりあげたいと思っていたがどうやら真宵が計画しているのは私が想像していたものよりずっと規模の大きなお花見のようだった。
庭である校庭にも桜の木はあるのだが、恐らく真宵はどこかの公園に行きたがるのだろう。
そう思うとめんどくさい気持ちがずしんとのしかかると同時に、どこかに簡単な近道があるはずだからそこを通ればいいという悪魔のささやきがやってくる。
百年坂のてっぺんのほうにつながる道を見つけられれば、ひとけもなく立派な桜が拝めるのにとちょっと欲を出すが、私は百年坂のてっぺんにつながる道も知らなければ、花も恥じらう十七歳の乙女なので百年坂を正々堂々とのぼるために入り口さえも分からない。
「ねえ、お弁当はやっぱり二人で作ろう。その方が思い出になるし」
真宵は嬉しそうに準備を始める。
近所の公園に行くくらいで弁当を用意するのは少々大げさな気もするけれど、日本人にとっては桜は特別な春の風物詩だ。
現に多くの人が公園でどんちゃん騒ぎをするために、朝早くから弁当をつくったり場所取りをしている。
私はできるだけ楽をしたいので、こういう時なにもかも手作りしないで出来合いのものをうまく活用することにしている。
例えば、缶詰や冷凍食品だ。
そのままお弁当につめても美味しい。
そりゃあ、企業の人が研究を重ねてつくっているのだから素人の私のつくるものより美味しいに決まっている。
だけれど、どこかで食べたことがあるとはっきりと人の記憶に残る味だ。
家庭料理は違う。
すごくおいしくできる日もあれば、いまいち味が決まらない日もある。
日によって味がばらけることがあるおかげで人が毎日たべても飽きないことを実現させている。
そんなことはどうでもいいが、とにかくお弁当は適度に企業のつくった製品をつかって時短あんど技術のそこあげをするのがベストである。
なにか使えるものがないだろうかと、私は家庭科室の棚をごそごそとやる。
確か買い置きの缶詰なんかをつめておいたあたりの扉を開くと、なかからごろごろととっくに賞味期限を超えていそうなインスタント食品やら瓶詰が転がり落ちてきた。
私は仕方なく、賞味期限と種類ごとに分類をしていく。
賞味期限内の缶詰。
賞味期限の切れた瓶詰。
不明なもの。
不明なもの。
不明なもの。
大半が賞味期限と中身が不明な瓶詰だった。
瓶の中にはぼんやりとした白色の物体がういているものもあった。
何だろうこれは。
ぐにゃりとして、やわらかそうで、どこかでみたようなこれは。
わからない。
もう少しでわかりそうだけれど、頭がそれを理解するのを直前でとめている。
悲鳴をあげそうになるがなんとかこらえる。
真宵がみてこれがなにか気づいたらとてもショックをうけるだろうから。
瓶の中に詰められているものは、おそらく人間の一部だ。
白いのはふやけた皮膚。
私はこれらをみなかったことにして、真宵に見つかる前に始末してしまいたかった。
「何してるの?」
遅かった。真宵の声がぐ後ろから飛んでくる。
「なんでもない。なんか賞味期限切れのものがいっぱいあって。あとで片付けなきゃって」
私は真宵をごまかそうとする。
『見ちゃダメ』自分がなにかしたわけじゃないけれど、真宵にはショックを受けてほしくなかった。
「そっかー、あとで片付けなきゃね」
真宵は特に何か不振に思った様子もなかったので、ほっとした。
自分たちの家に死体が隠されている。
そんなことを知ったら真宵は夜、おびえながら眠ることになるだろう。
しかし、一体誰がこんなことをしたのだろう。
一番可能性があるのは、ここを管理していた家庭科の教師だ。
私は、真宵が見ていないすきを狙って色んな特別教室の備品を確認する。
生物室、地学室、物理実験室、化学実験室、技術情報室、音楽室、書道室……こうやってみるとただの教室でない場所というのが学校にあるのが分かる。
このほかにも、放送室とか保健室とか特別な目的のために用意されている部屋はたくさんあった。
そして、それらは閉ざされた空間でやはりそこにもさっきの瓶詰のような死体があった。
教師という仕事に秘密がつきものなのか。
学校という特殊な空間は秘密を隠すのに適した空間なのか。
理由が分からないまま、今日も私は私たちの家である学校に隠された死体を真宵より先回りして探している。
学校に住むなんて馬鹿げていたかなあ。
そんなことを独り言ちりながら、大好きな人のために私はこっそり死体を探し続けるのだった。
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