藁人形の作り方
※※※あらすじ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
藁人形の作り方を教えてくれる手芸店のはなし。
プリントアウトしたレシピと材料をうるパターンと初心者向けにはワークショップで呪いの込め方を教えてくれる。
初心者は小さな呪いだが、一人でレシピをもってかえって作ろうとする人はどんな大きな恨みがあるのだろう。
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「冬といえばマフラー編みたくなるよね」
「真宵、編み物なんてできるの?」
「もちろん。できないよ」
真宵ははっきりと答えた。
「だからさ、一緒に習いながら作ろうよ」
そう言って、真宵は手芸屋さんの広告を見せてくれた。
毛糸の入荷と編み物教室のおしらせがかかれていた。
真宵と一緒に静かに手芸をするのは悪くないかもしれない。
真宵にぴったりな糸を選んで、真宵が一番可愛く見えるようなマフラーを編んでみたい。そうおもった私は真宵の提案をうけいれて、放課後二人で手芸店に向かうことになった。
「うわー、糸とか布がいっぱい」
真宵は嬉しそうに手芸屋のなかを見て回る。
色とりどりの糸やリボンが綺麗に並べられた棚をみれば、だれであってもテンションはあがるだろう。
学校で家庭科の裁縫道具箱を買ってもらったときのことを思い出す。
男子まで十二色のボビンが入ったケースをみて嬉しそうな顔をしていたのをよく覚えている。
「手芸屋ってなんでもあるね」
嬉しそうに真宵が言えばいうほど、へそ曲がりの私はクールにふるまいたくなる。
「当然でしょ。専門のみせなんだから。ここでそろわなければ、みんな最初から百円ショップにいってしまうもの」
「でも、藁なんて珍しくない。何に使うんだろう?」
気が付くと真宵は店の端のとあるコーナーを指さしていた。
確かにそこには藁も商品として売られていた。
「納豆でもつくるのかなあ」なんて真宵は呑気なことをいっているが、ここは手芸店だ。
家庭科では料理もならうけれど、手芸屋に料理の材料があるなんてきいたこともない。
そのうえ、藁って料理につかうとしても納豆とかカツオのたたきくらいしか思い浮かばない。
まさか、アルプスの少女ハイジみたいに藁でベッドをつくるのだろうか。
それにしてはこの売り場でうっている藁の量ではたりなくなってしまう。
薄らぐらいそのコーナーに本当は近づきたくなかったが、私は真宵をつれてちょっとだけ近づく。
この手芸店は材料の側に作れる作品のレシピなんかを置いておいて自由にもっていけるようになっている。細やかな気遣いが嬉しい店なのだ。
藁の近くにも作品のレシピがおかれていた。
そこには『藁人形の作り方』なんて書いてある。
そうか、藁人形をご家庭でつくるときようの藁か。
ご丁寧に丑の刻参りのやり方までかいてある。
確かに、藁人形で呪うというイメージはあっても、具体的なやりかたって知らなかったかも……。
私は妙になっとくしかけたが、そんなことはあるはずない。
そう思ってぶんぶん首をよこにふっていると、
「すみませーん。ちょっと教えてください」
真宵は近くにいた店員さんを見つけて声をかけていた。
「この藁人形の作り方なんですけどお……」
「ああ、こちらですね。毎年売っているんですけど結構人気なんですよ。バレンタインのときにひどく振られたお客様とか。あとは告白がうまくいってももし捨てたら呪うからと相手をおどしているお客様に。いわば、ジョークグッズみたいなものですね。もちろん、ここでワークショップもあります。たしか、今日もこれから」
「参加させてください!」
真宵が勝手なことを言っている。
だけれど少し面白そうだとも思った。
私は一応、真宵のことを肘でつつく。「マフラーの編み方教室はどうするのよ?」と、予約とかあるだろうから軽はずみに不参加にするのは良くないとおもったのだ。
「大丈夫、見て」そう言って、真宵は学校にいるときに見せてくれた広告を差し出す。
するとそこには毛糸の売り出しと「マフラーの編み方教室」のお知らせではなく、「藁人形の編み方教室」のお知らせが書かれていた。
どうやら、毛糸と「編み方教室」という単語だけ私たちは拾って勘違いしていたらしい。
でも、藁人形の編み方教室が手芸店で開かれるなんてだれが想定するのだろうか。
藁人形の編み方教室は意外と人気だった。
手芸店の一角にひろびろとした机を囲むようにいくつもの椅子。そして、ひと席事になにやら材料のセットがおかれていた。
集まっている人たちも近所の主婦という感じでとても和やかだ。
藁人形をつくって、深夜に丑の刻参りをするような人には見えない人ばかりだ。
いや、みんな表立って人を呪い殺そうなんて容姿をしているわけがない。
心の内に思いがあるから、直接人を殺そうとするのではなく、呪いという形をとるのかもしれない。
私はいつ、おどろおどろしいことになるのかドキドキしながら講師の先生の話をきいた。
まず、藁を綺麗に濡れたペーパーで拭き、変な癖がないようにまっすぐに整えることから藁人形作りははじまった。
みんなで図工とか家庭科の時間みたいに、きゃっきゃっと試行錯誤しながら作業をする。
やはり誰も呪うなんて目的がなさそうな感じでとても楽しそうだった。
みんな先生に質問をしながら授業が進む。
生徒の数もそこそこいるので、だんだんと生徒同士で分からない場所を教えあったり、上手くいかない場所を手伝うようになり和気あいあいとしていた。
藁人形の形ができあがったころ、
「すこし休憩にしましょう」
先生がそういうと、お茶と黒飴が配られた。
黒飴なんてお年寄りのたべるものだと思っていたけれど、やりないことをして疲れた頭にはとても美味しかった。
そして、みんな藁人形を前にしながら身の上を語り始めた。
お姑さんに意地悪をされて殺してやりたいと思っている人。
上司のパワハラにあって会社をやめたいと追い込まれている人。
クリスマスに告白してOKをもらったのに、年が明ける前にふられた人。
みんな以外なことに、ちゃんと悩みをもって呪いたい人がいてこの教室に参加しているらしかった。
そんな話を講師の先生はにこにこしながら何もいわずに聞いている。
一通りみんながそれぞれの話をしたころ、お開きになった。
「丑の刻参りのやり方は今日配布したプリントにかかれていますから、ご自身で確認してくださいねー」
なんて講師の人は、おっとりと生徒たちに声をかけいたが、だれも聞いていなかった。みんな少しだけすっきりした顔をして、家に帰っていく。
私と真宵はマフラーの毛糸を買うために、まだ少し店に用事があったので他の生徒を見送るような形になった。
「本当に誰かを呪いたい人っているんですね」
他の生徒が帰ったあと、私は面白半分で講師の先生にはなしかけた。
「ええ、生きているとね」
講師の先生はおっとりとほほ笑んだまま返事をする。
「怖くないんですか?」
「怖いって、呪いが? いいえ。それにこの場があるから、人を殺さずに済んでいる人もきっといるのよ。ほら、みんな藁人形を怨念をこめてつくるじゃない。結構、集中するしいい気分転換になるの。それに、みんなで呪いたい相手のことをああやって話すとね。『ああ、つらいのは自分だけじゃなかったんだ』ってなって楽になる人も一定数いるのよ」
先生はニコニコしながらもちょっと怖いことを言った。
「今日来ていた生徒さん、きっと誰一人として丑の刻参りなんてしないわよ」
「そうですよね~。そんな時間に起きるのって大変ですもの」
のんびりとした口調の先生と真宵はちょっとだけ似ているようなきがした。
「すみませんっ。今日開催されるワークショップを予約していたものですが、もう終わってしまいましたか?」
私たちが帰ろうとしていると、飛び込んでくる人がいた。
「ええ、もう終わってしまって」
講師の先生は困ったような顔をする。
さっきまでの人を見守るような穏やかな表情とは違いとても困惑して緊張がはしっていた。
「これ、材料と作り方の紙ですよね。予約していたしこれだけお金払って買います」
そういって、遅れてきた人は講師の先生にお金を押し付けるようにして、藁人形作りのキットをもって帰ってしまった。
「あの人、丑の刻参りすると思います?」
私が興味本位で尋ねると、先生は静かに、ゆっくりと首をふった。
講師の先生が首を縦と横どちらにふったのかは、私には言えない。
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