ぼろぼろ屋敷の花嫁
誰かの妻になる話1
※※※あらす※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
高校生になって真宵は私の親友だ。
小学生のときのトラウマのせいでいまだに一人でどこかに行くことが怖いらしい。
そんな真宵がとある事件にまきこまれて……最近、行方不明の女性が増えている。
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「ねえ、今日帰り道アイスたべてこうよ。いいでしょ?」
真宵は上目遣いでこちらを見つめる。
大きな瞳は小学生のころよりも輝きをまし、さらさらとした髪は子供のころと変わらず漆黒の絹糸のようだった。
あれから真宵は私にべったりだ。
私たちは『親友』を続けていた。
喧嘩をすることも、真宵が引っ越すこともなく、私たちはずっと一緒に毎日を繰り返している。
そんな私たちを不思議がる人はもういない。
真宵は都会から転向してきた、ちょっと変わった美少女だし。
私は子供の頃よりは落ち着いて、この町の人間のフリができるようになった。
私と真宵は何をするのも、どこへいくのも一緒だ。
ただ、真宵は一人ではどこにも行けない囚われのお姫様になってしまった。
実際のところ、今の真宵ならば一人で行けない場所はほとんどないはずである。
はずというのはまだ私が知らない場所がこの町に存在しているかもしれないから。
百年町なんて場所があれば、たいていの人はたどり着くことができない。
ただ、普通に暮らす分には真宵はこの町を一人で歩いても大丈夫。
そもそも真宵のいうアイスクリームショップは町の外にある。隣の町との境目にあるといえばいいのだろうか。ちょうど店一軒の違いで真宵のお気に入りのアイスクリームショップは町の外にあるのだ。迷わされる心配なんて最初から無い。
だけれど高校生になるというのに、真宵はまだ怖がっているのだ。あるはずのない場所に向かい、道に迷ってしまうことを。
私にとっては都合のいいことだ。
こうやって、真宵の大きな瞳が私のために潤み輝きを放っているのだから。
真宵を独り占めできる。
このおかげで、私がこの町になじんだふりができるようになった。
日々に退屈して、自分だけがこの町の秘密に気づいたと思っていた子供の私にとって、外の世界からやってきたみんなが友達になりたがる女の子を手に入れたのは、自尊心をみたしてくれることになった。
そのおかげで少し余裕ができたのだ。
そして狡猾にも真宵との日々をより永く続けるために、私は普通のふりをすることを覚えた。
私はこちらを真剣なまなざしで見つめる真宵をみて、すこしだけ首を傾げ「どうしようかな?」という表情をする。その表情をみて真宵は一瞬不安そうにする。彼女の時間を握っているようでそれは小さいながらぞくぞくとした喜びを私に与えた。
「うん、いいよ。その前に本屋によってもいい? 参考書買いたくて」
「頭いいのにまだ勉強するの?」
真宵はぱあっと表情を輝かせ、私の腕をつかみ、スキップでもしそうな勢いで教室の外に飛び出していこうとする。
私はちょっとうんざりした表情を作りながら、心の中ではまんざらでもなかった。
私は真宵が大好きなのだ。
純粋無垢で美しく愚かな真宵が大好きだ。
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