第11話 嵐の前の静けさ
私の行動に呆れつつも、その場を去る2人を見送った私は、意地でも部屋の扉の前から離れなかった。
何人かが目の前を通ったし、何人も部屋を出入りしたけれど、あの2人以外に私がどこぞの令嬢だと気づかれることはなかった。
流石にリイナに見られるのは気まずいので、少し早めにその場から離れたけれど。
まぁ、儀式の会場までは複数人がリイナにつきそうはずだから、ここは心配しなくて大丈夫。
儀式に出るな……なんて言われたけど、まぁバレなければいいのよね。
変装したこの状態で神官たちに紛れて出席する分には問題ないはずだ。
ということで、引き続き神官のふりをしながらリイナを見守ることにする。
会場に入るとすでに招待された貴族たちが、聖女の儀式に参列していたので大変賑わっていた。
会場……とは言っても儀式が行われる場所は、屋内ではなく神殿の奥にある庭園なので、部外者が入り込む可能性がある、警戒が必要だわ。
私はしれっと神官たちに混ざり、彼らと儀式の準備を手伝う。
聖女が歩くためのレッドカーペットを敷き、その両脇にはパーテーションを張る作業だ。
ちなみに棒と棒の間のロープの代わりに白いリボンが使われており、結び目ははなをモチーフにした結び方をするので、みんなそこに苦労していたようだ。
私も皆に混ざってパーテーションの準備をしていると、誰かに肩を叩かれる。
「儀式の間も変装したままでいるつもり?」
一瞬見知らぬ誰かか、あの2人のどちらかが声をかけてきたのかと思い、ドキッとしたが、振り返ると、そこにいたのは事情を知った人物だったので私はほっと安心する。
「あら、アモルト神父。」
「その銀髪と角ばったメガネが、太陽の光を反射して二重に眩しいわ」
私は彼にそう言い返す。
彼は私たち3人の教師的な存在だ。
厳密にいうとリイナの教育係だったのだけれど、頻繁に私たち3人も遊びに行っていて顔見知りになり、一人でやるより数人でやった方が捗る、というアモルト神父の心遣いで勉強を教えてもらうようになった、というのが知り合った経緯だ。
そんな心遣いできる優しい人というのは子供は舐めやすい。
なので、自分の教師であるにもかかわらず、タメ口に近い言葉で返事を返した。
まぁ、年齢はともかく、向こうは子爵、こっちは伯爵で爵位はこっちの方が高いのでまぁギリセーフでしょう。
なんて考えていたら、それを見透かすようにアモルと神父は苦笑を浮かべた。
「嫌味?誰のおかげで、まだ神殿にこっそり潜り込めてると思ってるのさ?もう少し感謝してほしいもんだよ。」
「それもそうね、ごめんなさい、服ありがとう。助かってるわ。」
「活用できてるみたいで何よりだけど……聖女の親族だよね?流石に儀式の間は変装解いたら?」
「言わなかった?追い出された時に儀式にも参加するなって言われたの。」
「あぁ、そうだったね、無理もないと思うけど。じゃあその格好で儀式に参加するの?」
「そうよ、神官に紛れて参列するわ。そして一番近い場所でリイナの儀式を見届けるの!」
私はガッツポーズをしてそう答える。
もう今日は見慣れたが、そんな私の固い意志を感じたのか、神父は呆れた表情を浮かべた。
この表情を見るのはこれで4人目だ。
「そうかい、まぁ、
「嫌味を言うなら、もっとわかりにくいうことね。もしくはストレートに言いなさいよ」
「ご指摘痛みいるよ。」
アモルト神父は、ふう……とため息をつくと、もうそれ以上嫌味をいうことはやめた。
そして頭をかきながら、私に気になっている質問をしてきたのだ。
「で、探してた魔女は見つかった?」
「いいえ……部屋には結局来なかったわ……。」
まぁ、だからこんな格好でも儀式に参列しようとしてるんだけど。
「じゃあやっぱ3人のいうように思い過ごしなんだよ」
「それを判断するのは儀式の後でもいいはずよ。儀式中の可能性も0じゃないわ」
「外だしね…そこを言われるとこっちも否定できないな。」
ということは……やっぱり危険よね……。
私の想定では、リイナが狙われるのは儀式の前、一人の時。
でも、この時間以降リイナが一人になることはない。
今は打ち合わせ中で、この後周りの人に連れられてここにくるのだから。
だから待ち伏せしていればロベリアの姿くらいは拝める……と思ったのだけれど、それらしき姿はどこにもなかった。
リイナに接触させることは避けれたけれど、捕まえられないんじゃ解決にはならない。
「ねえ、ここセキュリティー大丈夫?屋内でやるよりも危険があるでしょ?」
「クロウが一応強化してくれるように頼んでくれたみたいだから、警備は万全だよ。完全招待制だから庶民は入れないし。」
「でも、神殿の周りには人集まってくるんじゃない?」
「まぁ、神殿の門はもう閉じてる上に見張がいるしねぇ、裏門も同じ。柵も高いしよじ登ったり、穴ほって中に入ってくるとも思えない。これ以上できることないよ。もう心配しなくても……」
「なんと言われようと、私は意見を曲げないわ!あんなことがあった後なのに楽観視すぎよみんな!」
「そこまでいうのに、流石に儀式の会場を移せとまでは言わないんだ」
「言いたいけど……無理でしょ?」
「そうだね。神に認められて、初めて正式な聖女になることができるから。」
「この儀式も、聖女が神様に挨拶する名目のものだものね。」
聖女の儀式、これは執筆する時に大分気合を入れたシーンだ。
だから明確に覚えている。
レッドカーペットの先にある小さな滝。
まぁ、現代日本でわかりやすくいうと御神体と言ったところか。
だからあそこの水は聖水ということになっているのだけれど、あの聖水に触れることによって、聖女は神様と話せるようになる。
そして、聖女は神様から言葉をもらい、人々に恵みを与える役割を持つ。
だから聖女は皇太子と結婚してのちの皇后になったり、神殿で一生神様に仕えるかのどちらかになる。
まぁ、皇太子がもう結婚してるから、リイナにその話は来なくて公爵のフィリックの演壇が舞い込んだんだけどね。
まぁ、ここまで気合い入れたのに、誰にも見てもらえなかったんだけどね……この作品。
虚しいことこの上ない。
いいけど、前世のことだから。
まぁ、前世の無念は置いておくとして。
とにかくその事情から、儀式の場所を変えることは不可能なのはわかっていたので、そこまでなんとかいうつもりはない。
「まぁ、不審者は今のところいないから安心して。儀式の最中は神官全員が参列するし、滅多なことはないよ」
「それでも心配なのが、親心ってもんでしょ」
「わかったよ、ごめんって、もう言わない。ほら、始めるから彼らに混ざって並んで。遅くなればなるほど、いい場所に並べなくなる。」
アモルト神父はそういうと、自身は準備のため祭壇に向かった。
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