第34話 候補はいくらでもいる
「うわー……またきた。」
廊下の向こうにいる男が何者なのか察したフィリックは、わたしたちにしか聞こえない声で、そう呟いた。
その彼を笑顔(目は死んでる)と乾いた笑でおちょくるようにクロウはこういった。
「何、君も君で対応に追われてるの?」
「まぁな。やっぱ、あれが大勢の貴族の前で見られたのが不味かったな……。まぁなんとかする。」
自分の客人の呼び出しに応じないわけにもいかないフィリックは、そういうと嫌々中年男性の元へ歩いて行った。
状況を把握できていないのは私だけらしい。
「な……何よ……何が起きてるの?」
「あの男性……見覚えない?」
クロウにそう言われて、私はもう一度目を凝らして廊下の向こうにいる中年男性を見る。
遠くにいたのですぐにはわからなかったけれど、よくよく見たらわかった。
「あれ……フローレンス侯爵じゃない……フローレンス侯爵って確か……」
「そう、娘さんのチェルシー嬢が、フィリックの婚約者候補の一人」
「何が候補よ……もう何年も前に婚約決まってたのに2人の婚約に割って入ろうとしてきたんじゃない!」
「君はリイナに肩を持ちすぎて、記憶が書き換えられてるよ。正確にはあのとき2人はまだ婚約確定してなかったからね。」
「そうだったわね」
チェルシー・フローレンス。
彼女は私の執筆した物語にも出てくる。
リイナのもう一人のライバルであり、友人だ。
嫉妬でリイナの全てを恨むルナとは対照的に、全面的に事実を受け止め、負けを認める人だ。
まぁ、それは物語がもう少し進んだ後の話。
現段階では、父親主導とはいえ、リイナの婚約を横取りしようとしているに過ぎない。
リイナの婚約がが完全に確約したのは、実はリイナが聖女として確約されたつい最近だったのだ。
つまり、それまではリイナだって婚約者候補でしかない。
当然他の候補者の話も舞い込んでおり、そのうちの一人がチェルシーなのだ。
フィリックがチェルシー含め、他の候補者を断ったから、ほぼリイナ以外に候補はいなくて事実上確定ではあったけれど、聖女になることという条件はずっと外れなかった。
そしてその約束が果たされたから、そのまま決まりになったわけだけれど……
「もしかして、この扉の中の話が片付かないと……」
「消えるかもね。リイナの婚約話。」
「そんな!」
それはダメよ!!
なんのために私が本来の道を逸れて、黒幕を降りたと思ってるのよ!
私はリイナに幸せになって欲しくて……幸せな結婚をして欲しくて、それを見守りたくて、黒幕を降りたのよ!
私のせいで婚約破棄なんかになったら、本末転倒じゃない!!
「まぁ、考えようによってはありかもしれないけどね。リイナの体を守ることが目的なら、このまま彼らの要求を飲んで、役割降りるのも手だよ。黒幕の狙いが聖女の座なら、それでもう手を引くだろう。」
「身を守るために、何かを諦めなきゃいけないなんて…理不尽よ!」
「そうはいうけどねぇ……でも少なくとも、君が呪いを解かない限りは事実は変わらないよ。このままだとリイナの未来は確定することになる。生きることを諦めてる場合じゃなくなったね」
クロウは笑顔で私にそういった。
全く、もしかして私に葉っぱかけてるつもり?
さっき弱音を吐いたから?
もうさっきの話はチキン食べ終わった瞬間に終了した話なんだから、掘り返さないでよ!
私はバツが悪くなり、話を変えた。
「抗議に来てるのは。候補者の親だけ?」
「だと思うかい?」
んなわけないわよね
親たちがここで神父詰め寄ってるってことは、元候補者たちはリイナのところにいるに違いない。
「リイナはどこにいるのかしら……」
そう思って当たりをキョロキョロしていると、こちらに向かって飛んでくる白い鳥を見つけた。
リオスだ。
ということは……そういうことなのだろう。
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